28
鳴海店長に指示された場所を全て清掃し、時計を見るとすでに夕方になっていた。
みんなはまだ仕事をしている時間だ。一人だけ遊ぶわけにはいかない。そんなことをすれば香坂に『給料泥棒』と言われかねないよ。
「夕食でも作ろうかな。食費はもらえないんだよね」
昨日の醜態と、香坂へのお詫びをかね、私は買い物に出掛けた。財布の中身は空っぽだ。スーパーに行く途中銀行のATMコーナーに立ち寄る。
残高はわずか二十万。
ここから十五万弁償すると、生活出来なくなる。リストラされる可能性も高い。生き残るためには、ショーのモデルを引き受けるしかないのかな。
Tシャツの胸元を両手で引っ張り、ATMに設置された鏡に移す。
はぁー……。
ため息しか出ないよ。
「お兄さん、終わったなら変わってよ」
「お、お兄さん!?」
「あら、お兄さんでしょう」
「お姉さんです」
「ソッチなの」
ソッチって何よ。
「私は正真正銘、オンナです」
「やだ、あはは。失礼しました。ごめんなさい。道理で可愛いイケメンだと思った」
本当に失礼しちゃうな。
プンプン怒りながら、銀行を出るとbeautiful magicの前に若い女の子が携帯電話片手に、店内を撮影していた。
店は全面ガラス張り。店内は歩道から丸見えだ。黒いパンツに白いシャツを着た香坂が、まるで魔術師のように女性の髪をカットしている。
全員制服は同じ。
白いシャツから覗く胸元が、妙に眩しい。
女性のシャンプーを終えた三上が、姿を見せると女の子から歓声があがる。
諸星は一番奥で客にカラーしている。鳴海店長は隣接するブティックで女性に洋服を選んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます