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 鳴海店長に指示された場所を全て清掃し、時計を見るとすでに夕方になっていた。


 みんなはまだ仕事をしている時間だ。一人だけ遊ぶわけにはいかない。そんなことをすれば香坂に『給料泥棒』と言われかねないよ。


「夕食でも作ろうかな。食費はもらえないんだよね」


 昨日の醜態と、香坂へのお詫びをかね、私は買い物に出掛けた。財布の中身は空っぽだ。スーパーに行く途中銀行のATMコーナーに立ち寄る。


 残高はわずか二十万。


 ここから十五万弁償すると、生活出来なくなる。リストラされる可能性も高い。生き残るためには、ショーのモデルを引き受けるしかないのかな。


 Tシャツの胸元を両手で引っ張り、ATMに設置された鏡に移す。


 はぁー……。


 ため息しか出ないよ。


「お兄さん、終わったなら変わってよ」


「お、お兄さん!?」


「あら、お兄さんでしょう」


「お姉さんです」


「ソッチなの」


 ソッチって何よ。


「私は正真正銘、オンナです」


「やだ、あはは。失礼しました。ごめんなさい。道理で可愛いイケメンだと思った」


 本当に失礼しちゃうな。


 プンプン怒りながら、銀行を出るとbeautiful magicの前に若い女の子が携帯電話片手に、店内を撮影していた。


 店は全面ガラス張り。店内は歩道から丸見えだ。黒いパンツに白いシャツを着た香坂が、まるで魔術師のように女性の髪をカットしている。


 全員制服は同じ。

 白いシャツから覗く胸元が、妙に眩しい。


 女性のシャンプーを終えた三上が、姿を見せると女の子から歓声があがる。


 諸星は一番奥で客にカラーしている。鳴海店長は隣接するブティックで女性に洋服を選んでいた。

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