16
「ほら、類も飲めるんでしょう?」
諸星は私にビールを勧めた。
「私は……」
「今日は類の歓迎会だよ。飲んで飲んで」
仕方なく私は一杯だけビールを飲み、予想通り酔っぱらった。
私はアルコールに弱い。
お酒を飲むと涙腺が崩壊する。ほんの数口摂取するだけで、泣きじょうごだと明らかになる。
「どうせ私は不器用でエステティシャンに向いとらんよ。本当は広島から東京に来とうなかった。わざわざ上京したのに、人事部の手違いで、行き場がないなんてあんまりじゃあー……」
えんえん泣いている私に、四人が唖然としている。
「グラス一杯で、泣き上戸か? 方言丸出しでカァカァ騒いで、田舎のカラスみたいだな」
香坂が呆れたように私を見つめた。
「類、僕と一緒に頑張ろうね」
「うん、捺希しゃーん」
諸星に抱き着いて、泣いたところまでは記憶にある。でも……そこまでの記憶しかない。
◇
けたたましいベルの音で目覚めた私は、シングルベッドの中で洋服を着ていないことに気付く。
ピンクのパジャマ。母が買って持たせてくれた、真新しいパジャマ。
いつの間に……着替えたのかな。
眠い目を擦りながら、隣に視線を向けると諸星が気持ちよさそうに私のベッドで寝ていた。
「ぅ……わあっ」
最悪だ……。
私、転勤初日に諸星とひとつベッドの中……!?
な、な、何をしたの!?
思わずパジャマのズボンの中を覗き、昨日と同じ下着を着けていることを確認した。
して……ないよね?
まさか……ね?
ここは男子寮だ。職場みたいなもの。
取り敢えず、シャワーと着替えをすませよう。
諸星を起こさないようにキャリーバッグから下着を取り出し、そっと部屋を抜け出した。
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