「恭介……」


「俺、もう一度プロポーズするから。俺にチャンスをくれないか?」


「私……」


「無理して行きたくもない本社の商品部に行かなくていいんだ。わかってるだろ? これはリストラと同じなんだよ。東京に行っても、きっと倉庫に配属されるんだから」


 噂で聞いたことがある。

 退職を促しても従わないものは、商品管理倉庫に追いやられると。


「そこまでして働かなくても、いいだろう」


 恭介は私の手を握った。


 恭介の気持ちは、とても嬉しかった。でも何かが違うと感じていた。


「自分で決めたんだ。頑張ってみるよ」


「類は頑固だな」


 恭介は私に優しい笑みを向けた。


 私にとって恭介は、初めて付き合った人。


 初めてキスをして、初めて一緒に朝を迎えて、初めてプロポーズをしてくれた人。


 だから、特別な人だった。


 ◇


 ――東京駅から新宿の本社に向かう。恭介は研修のため本社六階に向かい、私は地下の商品部に向かった。


「あの、広島支店から来ました、錦織類にしきおりるいです。本日付で商品部に配属になりました」


錦折塁にしきおりるいさんならもう出社されてますよ。部長に気に入られ、部長と一緒に商品開発部に視察に行かれました」


「えっ? あの……私が錦織類ですけど」


「やだな、ご冗談を。錦折さんは男性ですよ。しかも、イケメン。倉庫に配属される予定でしたが、もう部長の秘書みたいに扱われてるんだから。悪いけど、あなたとは比べものにならないわ」


 意味がわかんないよ。

 私はすでにリストラされてるのかな?


「四階の人事部に問い合わせて見られては?」


「……はい。そうします。失礼します」

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