不器用だけど、エステティシャンになりたかった。私の手で、女性を美しくしたかった。


 美容師みたいに、日本では国家資格はないけど、それでも私はエステティシャンになれたことを誇りに思っていた。


 サロンで実務経験をするまでは……。


 入社し、学校と仕事、夢と現実の違いを目の当たりにする。不器用な者は、知識を学んでも、指先が器用になることはない。


 二年間務め、結局左遷だ。


 でも私は逃げたりしない。


 商品部から再びエステティシャンに戻ることが出来るかもしれないから。


 母からもらった封筒をバッグに押し込み、心配そうな母に笑顔で手を振る。


 発車した途端、涙がドーッと滝のように溢れた。新幹線の窓際の席、空席の隣に男性が座る。泣き顔を見られたくなくて、窓の外に視線を向け、グズつく鼻を啜る。


「何を泣いてるんだよ」


「えっ……?」


 振り向くとそこには、四ヶ月前に別れた朝日川恭介あさひかわきょうすけが座っていた。


「きょ、きょ、恭介……!?」


「どっから声を出してんだよ。首を絞められた鶏か。本店商品部に転勤になったんだろ。自分で行くと決めたのに、メソメソするんじゃない」


「どうして恭介が? 恭介も転勤したの?」


「違うよ、俺は新商品の研修があるんだ」


 恭介は同じbeautiful line corporationの広島支店営業部所属。美容師の資格はあるが営業の方が向いていると、その道を選択した。


 恭介は私の勤務していたエステサロンに新商品のセールスや在庫の確認によく店を訪れていた。

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