【1】美男は見て楽しむもの

 ―広島―


「本当に大丈夫なん? 広島で通用せんかった類が、東京の本社で勤まるんね?」


 心配性の母が新幹線のホームで私を見送る。


「大丈夫よ、心配せんでもええよ。こう見えても、私はタフじゃけーね。母さんこそ体には気をつけてね。もう若くないんじゃけえ」


「母さんを年寄り扱いせんでや。類、これ、仕事で躓いたら、これで一攫千金しんさい」


 母が私に封筒を渡した。銀行名が入った封筒だ。これで一攫千金? もしかしてお金かな。その厚みに期待が膨らむ。


「母さん……。ありがとう」


「寂しくなったら、いつでも帰ってきんさいね」


「うん」


 二十二歳にもなって、私は母との別れに涙ぐむ。泣き虫で弱虫で、本当は全然タフなんかじゃない。


 高校を卒業して、エステの専門学校で二年間皮膚科学や、香粧品学や生理解剖学、衛生学を学び知識はそれなりに詰め込んだものの、不器用な指先は頭で描くように上手く動いてはくれず、施術はいつも先生からお叱りを受けた。


 東京に本社がある『beautiful line corporation』の広島エステ部門に採用されたものの、お客様からクレームの嵐で、今年三月ついにエステ部門から本社の商品部への辞令が下る。


 皮肉にもその日は私の誕生日だった。


 本社のお偉いさんは、きっとこれで私が退職すると思っていたに違いない。


 転勤と言えば聞こえはいいが、本当の目的は使い物にならない社員のリストラだった。

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