第5話 人形の昔話

 元々私は、元気な子だとよく言われるような普通の女の子だった。

 人形じゃなくて人間の。


 重い病気やなんてしたことなかったし、まして捻挫より酷いような怪我すら一度もしたことはなかった。


 そんなある日、私は幽霊屋敷だという噂で有名な屋敷へ忍び込んだ。


「『不法侵入は犯罪です。良い子は真似しないでね!』っていうテロップでも付きそうなことあっさりするなよ。」


 う、空き家って聞いてたからいいかなーって…。


「いやダメだろ。」


 ……分かってるわよ!もう二度としない!


「分かってくれたなら何よりだ。」


 ……こほん、気を取り直して続きを話すわよ?


 忍び込んでみたはいいけど、少し探索してみても面白そうな物は特になかったの。


 それにただでさえ不気味なのに聞いてた噂もあってちょっと……その……えっと……。


「?

 埃っぽくて嫌になったのか?」


 馬鹿なの!?

 今の話の流れでどうして埃のせいってことになるの!!


 こ、こここ怖かったのよ!!

 何年も人が住んでない割には何故か廊下の鎧も綺麗だったし……。


「え?廊下のあれって甲冑じゃないのか?」


 甲冑も鎧も似たようなものでしょ……。

 ってそんなことはどうでもいいの!


 それで歩いているうちにこの部屋に辿り着いたんだけど、ここが私にとって一番最後に来た部屋だったの。


「怖かったのに全部屋回ったんだな……」


 ……本当に頑張ったのよ……。

 多分あれで全部屋回ったはず。

 あ、全部屋って言っても予想だけどね。



 まぁそんな感じだったんだけど、この部屋にも残念ながら面白そうな物は見当たらなかったの。


 だからもう帰ろうと思って振り返ったとき、顔も服もない……デッサン人形みたいなものにぶつかったみたいでそれを落としてしまったの。


 その時は気にせずに屋敷から出たんだけど……。


 帰り際、玄関から出るときに確かに聞こえたの。



『落トシタモノハ、拾ワナイト』



「おお、正論だな。」


 じゃなくて!!!!!

 怖くないの!?!?


「?

 たまたま見てた家主の声とかじゃないのか?」


 だから!!

 ここは空き家なの!!!

 話聞いてた!?

 馬鹿なの!?!?


「そ、そんなに怒らなくても……」


 はぁ……。何となく察してたけど、あなた相当ね。


「……何か俺、今馬鹿にされた?」


 するも何も元々馬鹿じゃ……?


「酷くないか!?」


 まああなたが馬鹿なのかそれともバカなのかは置いといて、


「どっちも馬鹿じゃねぇか。」


 そのまま逃げ帰った私が、夜ご飯を食べて寝て起きたら人形になってたってわけ。


「なるほど……。


 …………ところで訊きたいんだけど、俺がここにいるのってもしかして誘拐ではないのか?」


 ……………………。

 は?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る