転校生3

 僕と幸長のやり取りを黙って聞いていた歌凛が、僕をフォローしてくれた。


「あんたのように女の子ってワードで興奮する変態じゃないのよ、紘登は」


 全くもってその通りだ。


「紘登は変態じゃなくて、変人なの! あんたと一緒にするなんて紘登に失礼だと思いなさい」


「は?」


 歌凛の突然すぎる僕への悪口に驚いた。てっきり歌凛は僕のフォローをしてくれる仲間かと思っていた。


「何で僕が変人なの?」


「え? 自覚ないの? なら、教えてあげるわ。あんたは相当な変人よ」


 今まで変人なんて言われたことはなかったので、どこに変人ポイントがあるのか気になる。


「例えば……」


 歌凛は眼を閉じ、顎に手を置いて、考えて出てきた内容が、


「夢とか」


「夢?」


 特に心当たりがない。


「そう、あんたの夢って〝何もない日常〟でしょ。そんなしょぼい夢を思い描いてるのってあんたくらいよ」


 そんなことはないと思う。最近の若者は安定を求めているっていうし。


「あんたのは〝安定〟じゃなくて、〝何もない〟でしょ」


「どっちも似たようなもんだろ。何も変動することがないから安定なんだし」


 逆に言えば、何かある日常を求める奴は安定を望んだりしないってことだ。


「でも小学六年生時代は皆、もっと可愛らしい夢を持っているもんでしょ。夢についての発表の時、先生ですら苦笑いしてたわよ」


 先生苦笑いしてたんだ。全く知らなかった。


 確かに今の僕には特に夢なんてない。


「何であんたってそんなにつまんない人間になっちゃ――」


 歌凛が何かに気付いたかのように途中で喋るのを止めた。そしてチラチラと僕の顔色を窺ってくる。目が合っては、外されの繰り返しだ。


 うわー、めちゃくちゃ気を使われてるな。


 正直、今の僕は大丈夫だし、歌凛にこんなに気を使われるのは何か気持ち悪かったので、


「まあ、大人びた少年だったんだろうな」


 冗談を言ってみた。


 それを聞いて、さっきまでヘラヘラ笑っていた幸長が口を突っ込んできた。


「大丈夫だ。お前は進行形で間違いなくガキだ。クソ生意気なタイプの」


「殴るぞ」


 僕は幸長に見えるように拳を自分の顔の高さまで上げた。


「辞めてくれ。俺、痛いの嫌いだし」


 幸長は相変わらずヘラヘラしていた。


 僕が本気で殴るつもりがないことを分かっているようだ。


 実際に僕は本気で人を殴ろうと思ったことはないし、暴力は嫌いだ。自慢じゃないが喧嘩も弱い。

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