僕とキミが付き合う合理的な理由を証明せよ!

中瀬一菜

僕とキミが付き合う合理的な理由を証明せよ!

人 物

 葛原正輝(19)大学1年生

 桃田綾芽(19)葛原の同級生

 駒井理一(19)葛原の同級生

 教員A



〇大学・通路

   運動場の横にある通路。運動場では野球の試合が行われている。

   桃田綾芽(19)、葛原正輝(19)、向かい合って立つ。

綾芽「なぜですか」

葛原「……え?」

   葛原、顔を引きつらせる。

綾芽「私が貴方と交際する必要はあるんですか? メリットを示してください」

葛原「ひ、必要……?」

   葛原、首を傾げ、頭を掻く。

   綾芽、葛原を見つめながら、

綾芽「私は、私と交際するに値するだけの根拠を合理的に示すことができる方と交際したく考えていますので、説明いただけないなら、貴方の申し出は拒否します。よろしいですか?」

葛原「あッ、ハイ、よろしい、です……」

   葛原、項垂れる。

綾芽「あなたのお気持だけは、有難く受け取らせていただきます。では」

   綾芽、会釈をして立ち去る。颯爽と歩く。長髪が揺れる。

葛原、綾芽の後姿を見つめ、

葛原「ああぁぁ……っ」

葛原、赤面し、その場にしゃがむ。

葛原「可愛い……っ!」

運動場からバッターがボールを打つ音と歓声が響く。


〇大学・サークル棟・外観(夕)

   鉄筋コンクリート造りのボロ屋。学生たちが行きかう。


〇大学・サークル棟・部室(夕)

   ゴミと玩具、漫画で溢れる。

駒井理一(19)、ソファーに座り、テレビゲームをしている。

葛原、室内に入ってくる。

駒井、ゲームをしながら、

駒井「おー、お疲れ。どだった?」

   葛原、背後から駒井に飛びつく。

葛原「あぁ……ッ、ムリ、辛い、尊い、やっぱり好きだぁ、綾芽さんんん!」

駒井「ッあー! バカッ!」

   テレビ画面にGame overと映る

   駒井、溜息をつき、コントローラーを投げる。背後の葛原を剥がす。

駒井「で、告白の結果は?」

葛原「えっ? もちろんフラれたよ?」

駒井「ハァ? フラれたのになんでそんなにテンション高いんだよ」

葛原「俺と付き合うメリットみたいなのを納得出来たら付き合うって言ってくれたし、気持ちは有難く受け取りますって……あぁ、天使だ……」

   葛原、手を合わせて微笑む。

駒井「普通にフラれただけじゃねーか。あの顔だけ女の何処が良いんだが」

葛原「綾芽ちゃんは中身も素敵だよ!」

   葛原、駒井の隣に座る。

   駒井、ゲームを再開させながら、

駒井「俺はあの女の悪い噂しか聞かねーけどな。同じゼミの奴の物を盗んだとか、図書館の本散らかしたとか」

葛原「……噂だろ。お前は綾芽ちゃんのこと知らなさすぎる」

駒井「逆にお前は何を知ってんだよ。全くなんであんなのが好きなのかねぇ~」

   駒井、ゲームを再開する。

葛原「……俺、今日は帰る」

   葛原、部屋を出て行く。


〇大学・校舎・教室(朝)

   授業中。数十人の生徒が出席。

   教員A、板書ををしながら、

教員A「――ということなので、此処は必ず理解しておくこと。では次に……」

   綾芽、最前列に座りノートを取る。

   葛原、後方の席に座り、綾芽の様子を見つめる。溜息を吐く。

葛原「こんなに真面目に授業受ける人がさぁ……そんなわけないジャン」


〇大学・食堂・中

   数十人の学生が食事中。

   綾芽、焼き魚定食を食べ終え、手を合わせる。席を立ち食器を返却。

   葛原、物陰から出てきて、綾芽の食器を見る。

   食べ残し一切無し。綺麗な食器。

葛原「こんな食べ方の人がさぁ……そんなわけないジャン」


〇大学・図書館・自習スペース

   綾芽、読書中。

   葛原、綾芽を物陰から盗み見る。


〇大学・校舎・廊下(夕)

   壁沿いにロッカーが並ぶ。

   綾芽、ロッカーに教材を入れる。

   教員A、廊下にやってきて、

教員A「桃田さん、丁度良かった。ちょっといいかい?」

綾芽「はい、なんでしょうか」

   綾芽、ロッカーを閉める。

少し扉が開いていている。未施錠。


〇大学・校舎・男子トイレ・外(夕)

   葛原、ハンカチで手を拭きながら、出てくる。

葛原「ふぅ……。あれッ! 綾芽さんがいないッ! ど、どこッ?」

   葛原、辺りを見渡す。誰もいない。


〇大学・校舎・廊下(夕)

   葛原、ロッカーの前まで来る。

   綾芽のロッカーが開いている。

葛原「……あれ? 閉め忘れたのかなァ」

   葛原、ロッカーの中を覗き固まる。

   ロッカーの中はゴミで満杯。教材は埋もれている。

   汚水がロッカーから廊下へ足れ落ちる。

   ロッカーの扉には、桃田とステッカーが貼ってある。


〇大学・校舎・教室(朝)

   数十人の学生が静かに座っている。

教員A、叫ぶ。

教員A「私は、非常に、残念だ」

綾芽、最前列に座り、前を向く。


〇大学・校舎・廊下(夜)

   葛原、綾芽のロッカーを必死に掃除する。ゴミを袋にまとめ、

   教材を救い出し床に積み上げる。

   教材には綾芽の名前が書いてある。


〇大学・校舎・教室(朝)

   葛原、後方の席で俯いて座る。 

   教員A、教壇から降りながら、

教員A「他人の荷物を盗むなど、言語道断。犯人は必ず申し出るように」


〇道路・歩道(夜)

   葛原、綾芽の教材を抱えて走る。


〇大学・校舎・教室(朝)

   教員A、綾芽の横に立つ。

教員A「犯人は事務方とも協力して捜索する。絶対に逃げられないと思え」


〇アパート・室内(深夜)

   ワンルームの部屋。服が散乱する。

   葛原、綾芽と自分の教材を開く。自分の教材の名前を削りながら、

葛原「駒井の話って、こういうことかよ!」


〇大学・校舎・教室(朝)

   綾芽、机の上のメモを眺める。

   キミの荷物はいただいた! と書いてある。

教員A「私は真剣に勉学に励む学生の足を引っ張る輩を決して許しはしない!」

   葛原、顔を強張らせつつも、綾芽を真っすぐ見つめる。

   綾芽、机の上のメモを撫でる。


〇大学・広場

   十数人の学生が行き来している。

   綾芽、歩いている。

葛原の声「あ、ああ、綾芽、さんッ!」

   綾芽、立ち止まり振り返る。

   葛原が立っている。

綾芽「……こんにちは、お疲れ様です」

葛原「こ、こんにちは……!」

   葛原、俯いてモジモジする。

   綾芽、首を傾げながら、

綾芽「ご用が無いのなら、私はこれで」

葛原「あ、ありますッ! 5限目の授業終わりに、図書館に来てくださいッ!」

   葛原、走り去る。

綾芽「えっ……?」


〇大学・図書館・入口・中(夕)

   数人の学生が利用中。

   綾芽、館内で葛原を探す。


〇大学・図書館・自習スペース(夕)

   誰もいない。机の上に紙袋がある。

   綾芽、紙袋に近づき中を見る。

綾芽「アッ……、これ、は……」

   紙袋の中には教材があり、キミに返そう! とメモが置いてある。

   綾芽、教材を手に取り、開く。

綾芽「私の字じゃないけど……、私のメモがある……? これは、私の……?」

   綾芽、首を傾げる。

   葛原、物陰から綾芽を見守る。

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