第7話

奈良県の山中深部。秘匿された我が屋敷とは言え、最低限の外部との接続は保たれている。電力やその他のエネルギーは自家製であるが、それで動かす製品などは外注であるし、訓練用や部下の武装などはプロに頼む方が良い。


「ハルト。日本政府からの要請だ。そのライフルと自動拳銃やらは置いておけ。代わりの武器はこれを使え。」


S&W M500を机を滑らせ、渡す。


「リボルバーね。師匠のは良いんですか?」


「私のはオートマグⅤだからな。一般人でも買える。アメリカ等ではな。威力は魔術で強化すれば良い。食屍鬼程度なら50AE弾で十分だ。お前の身分は一応俺と同じ、インターポールの捜査員。日本での拳銃携帯許可付きのな。」


「ジョン・ドゥね。偽名丸出しな。貴方は?」


「私は有栖川悠斗を名乗る。一応は警察と自衛隊、そしてインターポールの合同ミッション。現在急成長するトゥーレが日本にも巣食ってるのでね。無論狩る。そこで私と君、そしてヴィクトリアの3名をだす。残りは自衛隊の魔術師が2人、警察から素人が1人。」


我々の符牒で素人とは非魔術師を示す。自衛隊や警察は勿論内部に魔術師が所属しているが、数は少なく、この国で魔術師が関わることは基本的に魔術師協会が活動する。更に魔術師を表に出すわけもいかない。


「なぜ素人?」


「知らん。セレスティアは悠に任せる。」


私は極東最大の権力を誇るが独立独歩の気風の強い東洋魔術師は言うことを聞かぬものも多い。その割に1度忠誠を誓えば違えないのはいい所だ。


「素人の面倒は?」


「ハルト、お前に決まっているだろう。」


「やっぱり。」


と苦笑する。ヴィクトリアを私が育てるのだから、面倒な事はハルトに任せる。弟子の宿命だ。


━━━━━━━━━━━━━━━

「綾霧小夜です!よろしくお願いします!」


私とハルトの意見は一致する。何故この馬鹿を?だ。送られてきたプロファイルを見ると東大法学部卒と言うのだから頭は良い。良いはずだ。


「有栖川悠斗だ。こっちはジョン。こいつはヴィクトーラ・アインツだ。」


警視庁のビルの一室に用意された顔合わせの為の臨時本部。綾霧の後ろで苦笑する、自衛官の表情を見て諦める。


ヘッドセットを投げ渡す。咽喉マイクに骨伝導スピーカーのセットだ。


「今すぐにでも叩く。行動開始だ。」


━━━━━━━━━━━━━━━

『こちら、プロフェットより各位。接続確認。』


プロフェット、預言者を意味するコードを名乗るのは有栖川悠斗さん。


「こちら、ライン。接続確認しました!」


私に与えられたコードはライン。


『こちらコード、テリオン接続確認。ノイズ見られず。』


『バビロン確認。残りもOKよ。』


テリオンはジョン・ドゥさん。バビロンはヴィクトーラさん。残りの自衛官の方たちも大丈夫らしい。


『では、各位傾注。これより敵拠点を急襲する。敵の本拠地は分かっている、叩き潰す。敵は理解しているな?トゥーレの極東の協力機関極東聖堂騎士団だ。到着までは後5分。強力な抵抗が予想される。各位、武装開始。』


車の後ろと前を遮るドアが開く、中にはこれでもかとばかりに重火器が搭載されていた。


「…凄い数ですね。」


『ライン、これを持っていけ。』


「…これは?」


黒一色の短機関銃。リボルバーしか使用した事の無い、私には少し抵抗がある。


『UMP45。45口径の短機関銃だ、弾倉には35発入る様に改造した。拳銃はデザートイーグル50口径のを持っていけ。』


「プロフェットさんは?」


『オートマグⅤとHK417。テリオン、NTV-20を任せる。』


『了解。ラインは俺のカバーに入れ。』


『ガスパーとキャスターはここを確保しておけ。スリーカウント。飛び出す!』


3、2、1。ドリフトをかけ正面に横付けする。開幕早々NTV-20の射撃音が響く。同時にフラッシュバンが十数個投擲され視界が潰れる。その中でも横から有栖川さんの射撃音が断続的に響く。


『撃ち方止め。クリア!』


そこには異形の軍勢、腐敗した人間だった物の成れの果てが有った。幾つかは下半身を破壊され呻くのみの物もある。突如込み上げた物を抑えきれず吐き出す。


『プロフェットより各位、突入する。全ての戦闘法を解放する。奴らには死霊術師ネクロマンサーが居る、死体は確実に頭を破壊しろ。』


胃液を出し尽くし、呆然とグチャグチャになっている肉塊を眺める。


『大丈夫か?着いてこれないならここに居ても良い。』


なんの為に私はここに立つのか。私は正義を為す為に悪を断つ為にここに来たのだ。


「……いえ、大丈夫です。」


『ほう、やる気だけは有るか。良いだろう、着いてこい。』


━━━━━━━━━━━━━━━

先行し突入した自衛官は突如信号をロストした。ハンドサインで停止を命じ、ここからは魔術行使を厭わぬと指示をだす。


「この手に剣を。」


日本の旧き時代の両刃の直剣を呼びだす。ウーツ鋼製のその刃は仄かな灯りを受け妖しく光る。地下にある敵拠点は何処から攻めてくるか分からないためこちら側が不利ではある。


『プロフェット、前方に敵主力と思しき大部隊、数はデュラハンが5、その下に100ずつの食屍鬼。デュラハンは?』


「勿論、奪う。」


支配権は死霊術師が握る。処女の死体を色々と加工して完成するデュラハンは戦闘力や思考力が一般的な人間を凌駕し魔術に至っては中堅の魔術師と互角以上に渡り合う。


「焔よ、我が剣に纏いて刃と化せ。」


同時に地面を影が走る、ズブズブと音を立て、影から槍が飛び出し、食屍鬼達を穿つ。後ろで馬鹿が息を飲んだのが分かるが無視する。


「我が手に銃剣を、この刃は断割せり」


剣を握る右手とは別に左手に4本の銃剣を召喚し射出する、漆黒の銃剣は食屍鬼を掠めると全てを灰に帰す。後方から20ミリ弾の支援が始まり1匹1匹、丁寧にヘッドショットされ血に沈む。


ハルバードを構えている先頭のデュラハンを剣でハルバードを斬り飛ばす。同時に小柄を放ち、そこから支配権を奪う術式に感染させる。動きの止まったデュラハンを後ろに投げ、さらに影を延ばし食屍鬼のみを喰らう。


前方からAKMで武装したデュラハンが100追加で現れる。食屍鬼をハルトに任せることにし、ヴィクトリアを鍛える。


「バビロン、これを使え。食屍鬼だけを狙う様に。」


9×18mm徹甲弾を使用するPP-19を渡す。この程度なら子供な彼女でも扱える。


空中に多数召喚したナイフが虚空を奔る。デュラハンを的確に突き刺し術式に感染する。既に40程は支配権を奪っている。


直ぐに決着が着いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る