変化しつつある世界
第6話
「ハルト、久しぶりだな。」
私の眼前に立つのは我が師匠にして、人工守護天使の製作者。樹である。
「まぁ、数年振りだな。師匠。」
「ようこそ。我が屋敷へ。セレスティア殿、ん?新顔か?貴様に幼女趣味があるとは知らんかったな。」
「預かった弟子だ。ヴィクトリアと言う。」
「そうか。では、ヴィクトリア殿も着いてこられよ。」
「…先生の師匠があの人なの?」
「そうとも。私がお前の師匠を教えたのだ。」
「樹様!何故私を置いていかれたのですか!」
我が師匠の腕に身体を絡みつかせた女性は有栖川悠殿。私が師匠に最後に会ったのは2年前、その頃から師匠を延々と追っかけていたようだが、師匠は東洋魔術等の研究、つまりは知的好奇心を埋めるもの以外に興味の欠片も無い。一応は魔術師の端くれ、後継者を育成する事はするがそれもおざなりなものだ。
ふと、立ち止まった師匠はコートの懐に手を突っ込み、大型の自動拳銃を抜く。そのまま無造作に向けると引き金を引く。その先には哀れな、若い青年の姿が有った。
「またか。」
師匠は指を鳴らすと影から幾人かが現れ、死体を担ぐとそのまま消える。
「話は後だ。少し急いで頂こう。」
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ハルトと私がお世話になった、日本に暮らす、師匠の元へ向かう事となった。彼の屋敷は近畿、奈良県の山中にあり、衛星からも映らない様に偽装の術式が数多重ねがけされている。樹殿、彼の姓は誰も知らない。彼が極東魔術界を支配し、世界の魔術師界隈で圧倒的に近い、影響力を誇るのは世界で10名しか存在しない、戦略級禁呪の使い手であるからである。戦略級禁呪はそれぞれ固有の物で、彼の使用する禁呪は世界の何処からでも対象に攻撃を届ける力を持つ神罰術式
「用意を。」
有栖川さんの指示の元、3人のヴィクトリアンメイドを着込んだ、メイドが私達に紅茶を配り、樹殿にはブラックの珈琲を渡す。堂々と有栖川さんは樹殿の隣席、それもピタリとくっ付くように置かれた席に座る。
ハルトがくすくすと笑いながら口を開く。
「随分、気を許された様だな。」
「ふん。私の本意では無い。だが、これとは勝負に負けたのでな。約定を違える訳にはいかん。」
これは私にも分かる。少々照れ隠しなのだろう。熱烈なアプローチは少しは身を結んだということらしい。
「その様な雑談をしに来たのでは有るまい。何用だ?」
「師匠にお願いしたいことが。2日後エリザが合流します。俺とエリザ、ヴィクトリアにティアを鍛え直して貰いたい。」
目を細め、興味深そうな表情をする。
「…ほう。貴様ら少々進んだ様だな。まぁ、良い。構わん。来たら我が手の物がこちらに案内するであろう。」
…今度はこちらが顔を赤らめる番で有った。開き直ったのか、私の事を愛称で呼ぶ度胸が高鳴る。それ如きにときめく、己に少々思う事が無いわけでは無いが、普通の女ならば当たり前かもしれない。
「ヴィクトリア殿であったな。今宵は良く休まれよ。英国とこの国では時差もあろう。合わせられる事だな。」
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