第2話
グレーターロンドン郊外の村落の屋敷。既に従騎士隊が包囲しており、物々しい雰囲気に包まれている。
「ラインハルト卿!」
「ゾンダー正騎士貴様が指揮を執っているのか。」
「はっ!どうぞどうぞ。」
早々に包囲網を通させ、セレスティアとエルザにヴィクトリアを連れて屋敷の中に入る。
「ヴィクトリアをエルザに任せる。」
「はいはい。リアちゃん見ときなさいよ。」
「はーい。」
遠足じゃないんだがな。
「セレスティア、カバーを頼む。」
「お任せ下さい、ハルト。」
25mmアサルトライフルを構え、コッキングハンドルを引きチャンバーに銃弾を装填する。
想定される敵は
玄関ホールから接続される大広間の扉を蹴り飛ばす。
「うわぁ。」
「中々の数ね。」
村にこんなに人間が居たのかと不思議に思うくらいの人間が居た。
「ようこそ!君の名を聞こうか。」
「1級吸血鬼か。ラインハルト・ティルボード。しがないハンターだ。」
「ふむ。私を1級と見抜く実力が有りながら、恐れないか。興味が沸いた。私は屋敷の最奥にて待つ。きたまえ。」
ふわっと姿が揺らぎ消える。消えたの合図にグール共が動き出す。
通常徹甲弾が1匹目のグールの頭蓋を打ち砕き、セレスティアのハンドガンが眉間を撃ち貫く。
「流石に多い。」
首から架けたタリスマンを媒体に喚起を行う。
《何事でしょう。我が主。》
「エイワス処理しろ。」
《承知しました。》
喚起されたのは俺が俺の為だけに組み上げた人工守護天使。それをプロテスタントの全面協力の元究極に高め上げた物がエイワスである。自然に干渉し風の刃でグールの首をはねる程度片手間で出来る。
暴風が吹き荒れ、結界を展開した俺の周り以外を無差別に切り裂く。人類が失った攻勢魔術を代替的にでは有るが行使する唯一の術である。
《完了しました。我が主。》
感謝し指を鳴らし還す。ここから先は不要だ。
「……何あれ。」
「人工天使さ。」
「神の御業を非才な人間の身で再現する方法。彼女はプロテスタントとハルトの持つ各派の技術の粋を凝らして造られた筈よ。」
敬虔なプロテスタントのエリザは気に入らないだろう。あれには日本神道にイスラムや同じキリスト教内でも敵対するカトリックや正教会の術式を使用している。その代わりメンテや改良は困難だが。
「ヴィクトリア。お前の分を俺が作ってやる。」
「…ありがと。後、私も手伝う。」
その意志に応えるため、ライフルを背負う。拳銃を抜き、マガジンを挿し込みスライドを引く。
「前衛は任せる。俺が支援しよう。」
呆れたように、エリザは言う。
「世界最強のハンターの支援を受けて初陣ねぇ。随分恵まれてるじゃない。」
「前衛ならこれはどうでしょう?」
セレスティアの持ってきた武器のひとつ50口径AE弾を改良した法儀式弾を採用したMP1を投げ、俺がコッキングのやり方を教える。
マガジンをショルダーバッグに入れ渡す。
「行くぞ。」
全員が頷いた事を確認し、扉を開く。薄暗い階段にはまだまだグールの反応がある。
ヴィクトリア、俺、セレスティア、エルザの並びで階段を降りる。エルザが剣の柄に明かりを灯しそれを頼りに下る。
少し下で反応したグールがこちらに近付いてきたのをヴィクトリアの肩を叩き知らせる。
「まだだ。引きつけろ。……撃て!」
マズルフラッシュが瞬き、12.7mm弾が叩き込まれる。反動がキツく少しバランスを崩すが俺が支える。
「大丈夫か?」
「っ、大丈夫よ!」
顔を赤くする。流石に咄嗟とはいえ、脇を掴むのはまずいか。
「悪い。」
「ふんっ!」
長い石畳の階段を下ると、仰々しい、強固な扉が有った。サイズ的にも重量的にも人間が開けられる代物ではない。
「どいてくれ。」
ヴィクトリアを退かし、ライフルのマガジンを換装。炸裂徹甲弾に変更し、蝶番を狙い撃ち込む。計6個の蝶番に6発の炸裂徹甲弾が放たれ炸裂音共に向こう側に扉がゆっくりと音を立てて倒れる。同時にセレスティアとエルザの人工守護天使が火炎系の攻勢術式を放つも倒れた気配は無い。それも当たり前だろう。簡単に倒れるなら1級では無いのだから。
「いきなりな歓迎だね。Mönch。フロイライン方。」
ドイツ系?そう言えばおかしい。この屋敷に着いたのは夕刻だが、日は出ていた。屋内とはいえ、吸血鬼は真祖以外に日が落ちないと活動できない。だが、こいつは真祖ではない。
「…どういう事だ?」
「気になるかい?教えて欲しいかい?」
「聞きたいな。」
「そうか!教えてあげよっ……」
嬉嬉として口を開こうとした吸血鬼はいきなり首が切り落とされ物言わぬ灰になった。
「誰だ!」
俺が誰何すると、暗がりから真祖クラスの吸血鬼が現れた。
「私はある機関から命令を受けた対吸血鬼の鬼札だ。彼らの所属はミレニアムとトゥーレを調べるが良かろう。貴殿らの管轄なのは弁えているが我が主の所属する機関には少々拘りがあってな。失礼する。」
まさか。俺の予想が正しければ不味いことになる。セレスティアとエルザの顔を伺うと同じ予想に至ったようで緊張の面持ちを浮かべている。
「それではまた会おう。」
一瞬にして数多の蝙蝠に変わり、俺達の間をすり抜けて消えていった。
「不味いことになりましたね…早く戻りましょう。」
その通りだ。グダグダしている暇は無くなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます