第2話いとこと俺と夏と

「あちぃぃ。。。」

広々とした休日の公園で呟いた。

特に記録的な猛暑でもないが、今年は7月のほとんどが雨でモワッとしたジメッとした暑さが体にまとわりついていた。

「帰るか。」


石田 いしだゆう、22歳フリーターで、彼女はいない。

優しい子に育ってほしいという意味を込めて『ゆう』と言う名を付けてくれた。

好きな事はアニメやマンガ観ることいわゆるオタクというやつだ、趣味はダーツをやる事で休日はだいたいダーツバーで投げていた。


(この暑さだとなんもやる気起きねーな)

そんな事を思っていると何やらポケットから音がした

『プルルルルプルルルル』

電話だ。

電話帳には父の連絡先しか入ってなく、スマホの画面には番号だけが表示されている。

『間もなく12番線に快速高尾行きが…』

帰りの電車が来る。

1度出てまた後でかけてもらおう。

「…。」

「申し訳ないです。これから電車なので後でお願いします。」

「…。」

電話相手からはなにも応答はなく、電車も来てしまったので、俺は電話をきった。

(なんだったんだ?間違い電話?迷惑電話か?)

すぐに番号を見返したが知らない番号だったので、また電話が来るのを待とうと思った。


何日か時が経ち、再度電話もかかっては来なかったので、俺は電話の事など忘れ去っていた。

そもそも、スマホ社会のこの世の中でSNSではなく、電話なんて珍しいのではないか?

俺も父の連絡先しかなく、電話がかかってくるなんて事は、宅配便か仕事先この2択しかなかった。


『ピンポーン』

何かと思い玄関へ行くと、地元の長野からの荷物が届いていた。

「宅配便です。兄ちゃんかなりこれ重いよ!」

「多分野菜とかですね。」

夏になると、とうもろこしと夏野菜等がたっぷりといとこの母親から送られてくる。

顔見知りの宅配のおじさんだったので、いつもの如くポカリを1杯あげた。

うちでは毎回夏になると宅配便の人に暑い中運んできてくれたのだからという意味でポカリを出すようにしていた。

「ありがとう!」

おじさんがゴクッと飲み干し

「それじゃまた!」

と言い仕事に戻って行った

(暑い中、ほんとにお疲れ様です。)


早速荷物の方を開けてみると、野菜と

『いつも遊んでもらってるから野菜たくさん入れといたよ。今年もよろしくね』

と書かれた手紙が一緒に入っていた。

毎度恒例な事だから特に何も思わず読んでいた。

正直一人暮らしの俺にとっては助かる物だった。

これで明日からの料理もはかどるなど思いながら、

仕事が夜勤なので仮眠をとる事にした。


22時からの出勤だったのでいつも通り20時30分頃に目を覚ました。

ただいつもとは違う事がこの日はあった。

「おはよ!」

若い女の人の声がした。

「えっ!?」

俺は何が起きたのか全く理解を出来なかった。

夢ではない事だけが理解出来た。

頭を落ち着かせる為に、1度深呼吸をして顔上げ声のした方向へ目を向けた。

「なんで居るんだ?」

明らかに知っている女の子がそこには居た。

「えっ?なんでってなんで?」

彼女は俺のいとこの結愛ゆめだった。

「とりあえず明日聞く!」

仕事に行かなきゃだったのでそそくさと身支度をした。

「なんで?どこか行くの?」

「仕事だよ!なんも用意してないから適当に過ごしてくれ」

そう言い残して俺は家を出た。

あとには結愛の行ってらっしゃいとの声がかすかに聞こえていた。

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