第6話 逃げる狼
どごんという爆発音と共に、周囲は騒然となった。
「おい、あっちは大統領閣下の執務室だぞ!」
「誰か、安否の確認を!」
そんな中、ユラも呆然とした表情を浮かべていた。
「そんな……。ここの警備は万全のはず……」
ユラは自慢の黒髪をクシャっと握った。
「お姉様、お話しは後ほど、私も爆発地点へ向かわねばなりません。ごめんなさい、急ぎます」
その言葉だけを残して、ユラは部屋を飛び出し駆けていった。
その場にはエメラしかいないという状況になったということだ。
「逃げるなら今か……。しかしまだ警備兵は残っているだろうが……」
と独り言を口ごもっていると、警備兵が入ってきた。
逞しい体つきとは裏腹に、柔和な表情を浮かべた黒髪の青年だった。年の頃は二十六歳位だろうか。
やっぱりか警備兵はいるか。エメラはそう思った……が、警備兵が放った言葉は意外な言葉だった。
「狼よ、群れろ。正義の星となれ」
「――!」
エメラは驚愕の表情を浮かべる。
だってこれは……。
「星は未来の灯火なり」
他でもない『狼』の合い言葉なのだから。
「手の縄は切りますね」
警備兵――いや、『狼』の仲間はナイフを取り出し器用に縄を切る。
「エメラさんですよね。こちらへ。逃げるルートは確保しております」
「なぁ、あんた、何物だ?」
「話しはあとで。今は逃げましょう」
そして二人は執務室を脱兎の如く後にした。
逃げるルートの確保は本当のようだった。といっても、そもそもエメラはこれに賭けるしかないのだが。
裏口を抜け、やっとこの忌まわしい政府庁から脱出することが出来た。
「脱出出来ましたね。この道をまっすぐ進むと貧民街に出ます。貧民街の広場に着いたら、坂道通りを進んでください。そこの五件目右手に、『許しを救う亭』という酒場があるのでそこに向かってください、そこが『狼』の今の拠点です」
「色々ありがとう……。君は何者なんだ?」
「密偵。といえば分かりやすいでしょうか。本当はもう少し複雑な役回りもしているのですが……」
「名を聞かせてもらえないか」
エメラ聞いておかないといけないと思った。自分を救った張本人なのだから。
「ヤン、と申します。『狼』の皆様にもヤンは無事ですと伝えてください」
「ありがとう、ヤン。あの爆発は――」
訊ねようと思った刹那、遠くの方から声が聞こえた。
「女が逃げたぞ! 探せ!」
警備兵の声が響き渡る。
「詳しく話してる時間はないですね。さぁ、走って!」
「ああ、本当にありがとう!」
それだけ残すと、エメラは全速力で言われた道をまっすぐ走り抜けた」
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