第6話 冥界生活

 冥界、白銀の極寒世界であり死んだものが送られる場所。


 ここに滞在することになって早2か月が経過した。


 冥界に生息していた生物を大量に相手し、捕食してきたが人間をほとんど見たことがない。


 そもそも人間がこの冥界の中で見ることが出来るのは冥界の入口付近のみとされており、入口から一定の距離が魔獣のテリトリーになっているため、大抵の人型は魔獣に食われるか殺されている。


 私が食べた果実による冥界への拘束もあと1ヶ月で解ける。


 そうすれば母を殺した人間を殺しに行ける。


 しかしあの日、必死になって気付くことが遅れたが今思えば不審な点が2つある。




 1、いつも遠巻きに陰湿なことをしてきた連中がなぜ急に襲ってきたのか


 2、あの村は人数が比較的少ない。数名程死体が足らなかった。




 可能性としてはあのクソ村の村人が外部に助けを求めたことが考えられる。


 兎にも角にも情報が少なすぎるから冥界から地上に戻った際に情報収集を行いながらゆっくり狩りをするとしよう。




 「そろそろ野菜が食べたい。生肉ばっかりもう飽きてきた...」




 現在私は冥界の寒さでもなく、魔獣の脅威でもなく、食糧問題に脅かされている。


 もう2か月も肉ばかりの食生活、どいつもこいつも寒さによって脂肪が大量に蓄えられていて尻尾に食わせるだけじゃ口が寂しいから私も食べるが脂肪がしつこすぎる...


 なんでもいいからせめて野菜が欲しい。


 しかし、冥界の寒さは氷点下を軽く下回っており、植物が育つには厳しすぎる環境にある。




 「助け求めようかな...でも駄女神に助け求めるのもなぁ」




 私はエレちゃんのことを思いながら狩った魔獣の肉を食べるのだった。




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 冥界で2か月も生活すると冥界でどの区画にどの魔獣が生息しているかわかるようになってくる。


 山付近には鳥類型が、平地には四足系の魔獣が大量にいる。


 しかし、冥界にも不思議な場所はいくつかあるもので、地形が不思議な場所や全く魔獣が近寄らない場所も存在する。


 地形が不思議といっても、重力が一定でなかったり、人工物のようなもので形成されたところなど色々である。


 私がよく拠点として利用しているのは、魔獣が全く近寄らない巨大な石像の膝元の壁穴。


 いくら私でも多種多様な魔獣に数に圧倒されるとすべてを相手にするのは流石に骨が折れるしめんどくさい。


 その時は必ずここに逃げるようにして、一体ずつ処理していくのが自分の中の作戦になっている。




 「それにしてもこの石像、毎回見るたびに思うけどなんで地面に膝つけて祈るような形になってるんだろ。髪とか服の作りこみも細かいし、製作者はどこいったんだろ。意図はなんなんだろ。というかでかすぎない?軽くそこら辺の山よりも大きいけど...」




 私の身長の軽く100倍はありそうな大きさの女性像、なぜこんなところに設置されているのかわからないし、知る必要もないと思っている。


 でも、なぜかここにいると落ち着く。


 お母さんのような、何かに包まれる暖かい感じがする。




 「ん?この石像...この前見たとき目閉じてたよね?あれ?開いてたっけ?」 




 私がこの石像を見つけて拠点として利用し始めたころは目は閉じていたと思う。


 しかし、ここは冥界。


 いくつかの魔獣が融合したタイプも見たし、よくわからない生態の魔獣もいる。


 冥界の入口の門番をしているのも動く石像だったから目が開いてる程度なら普通だろう。




 「この石像...まさか動いたりしないよね...?」




 とりあえずいきなり動き出して拠点が使えなくなった時のために別に拠点を作ろうと決心し、魔獣の毛皮に包まれて眠りに落ちた。




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 あぁ...私の愛しい子供たち




 この極寒世界に堕とされて幾星霜




 あぁ...私の愛しい子供たち




 私を置いてどこへ行くの




 あぁ...私の愛しい子供たち




 多くの命を育み、見守りました




 あぁ...私の愛しい子供たち




 ずっと愛していました




 あぁ...私の愛しい子供たち




 けれども子供たちは、私を置いて行ってしまう




 あぁ...私の愛しい子供たち




 私の愛は間違ったものだったのでしょうか




 あぁ...私の愛しい子供たち




 もう私を愛さないで




 あぁ...私の愛しい子供たち




 新しい命が私のもとに訪れました




 あぁ...私の愛しい子供たち




 もうすぐあなたたちのもとに戻れそうです




 あぁ...私の愛しい子




 いつも傷だらけ泥だらけ




 あぁ...私の愛しい子




 いつまでも、守りましょう




 あぁ...私の愛しい子




 あなたが終わるまで愛し続けましょう






 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

その少女は何処に向かう 曼珠沙華 @carnage_16545

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ