第5話
此処に来て早くも半年が過ぎたあたりで私はエレちゃんにある質問をされた。
「あなたの戦い方見てて思うんだけど、致命傷以外全然避けたりしないわよね」
「致命傷以外は受けて衝撃を貯蔵してるの。私の攻撃は相手の力を乗せて出してるから実質二対一の構図になる」
師匠の攻撃は確かに脅威ではある。
だからこそ、それを逆手に取り反撃する。
尻尾を液状化させたものを、私の身体全体の皮下に仕込んでいるため、多少の衝撃は身体に伝わりダメージを負うが、大部分の衝撃は尻尾に吸収され次の攻撃に転用できる。
これが致命傷以外の攻撃を避けない理由であり、尚且つ無事でいられるトリックのネタ晴らしだ。
いざという時の奥の手も用意してあるが、できれば使う時が来ないようにしていきたい。
「詳しいことは教えないけど、少しだけなら教えてあげる」
「少しわかるだけでも楽しいからお願いするわ」
エレちゃんに詳しいことを教えず、体内で衝撃を貯蔵することが出来ることを教えた。
そのことが珍しいのか、私の身体をまじまじと観察していた。
「そろそろお腹が空いたし帰るわね。今日はありがとう。面白いものが見れたわ」
そういってエレちゃんには帰っていった。
私が師匠の所に居ついた当初は、一週間に一回だったが、最近はほぼ毎日私の修行を見に来ている。
話す相手もいないし、引きこもってるだけだから暇なのだろう。
しかし身体に衝撃が伝わることはあまりよろしくない。
小さな衝撃も受けすぎるとボディーブローのように後々効いてくるため、持久戦に持ち込まれた場合にとても不利になる。
そうなると別の方法を考えなくてはいけない。
慢心は絶対にしない。
私より強い生物がいないという確証があるわけでもない。
師匠も敗北とは「死」を意味すると言っていた。
「もっと強くならねばならない。私から唯一を奪った人類は絶対に許さない」
思い出すだけで怒りが込み上げてくる。
握りしめすぎた拳から血が垂れ、地面に落ち凍る。
「必ず奪った代償を払わせてやる。村の人間はお母さんに対し怯えがあった。外部の人間に協力を仰いだか唆されたに違いない。個人か組織か不明だが一人残らず残虐に、容赦なく、一片の慈悲もなく殺しつくしてやる」
殺意が身体から漏れ出すとそれに呼応して尻尾たちが頬を撫で落ち着かせてくれる。
私がまだ殺意に呑まれずにいるのは、尻尾たちによるものが多い。
「また呑まれかけた...ありがとう。助かった」
「-.-...---.--.-.--.-.-.-.-.-」
「私にその暗号はわからないよ。声が出せるようになればいいんだけど」
尻尾には口があるが、形状から見て発声器官がないことは確かだ。
長さ的には生え際から大体4尺と師匠は言っていたが、私の身長とほとんど同じ長さなのが便利でもあり不便でもある。
伸びたり縮んだりも自由自在なので、これからの戦略の幅が広がっていくのはとても良い。
「尻尾で掠っただけでも抉れるのって結構凶悪だよね。抉った部分は何処に行ってるんだろ。口以外からも食べることが出来るのなら口がある意味って何なんだろ」
私自身の検証を行うにしても冥界ではやれることが限られており、本格的な検証や実験は地上に戻ってからになる。
尻尾の時折行う謎の光の暗号についても、実験しなければならない。
そんなことを思いながら尻尾を見ていると、最近尻尾についていた骨が剥がれ落ちたのだ。
師匠との修行の休憩中にポロリと剥がれ落ちた。
「尻尾の骨って結局何だったの?」
「.........-...-..」
先ほどから尻尾の先を点滅させ、何か信号らしきものを出してくれるが全く分からない。
少し前から点滅や伸ばしで反応するようになったのだが、規則性が不明で意思疎通が取れていない。
...ぐぅ
そんなことを考えていると私のお腹が鳴った。
そういえば今日はまだ何も食べていない。
近くの魔獣は粗方食い尽くしてしまったため、探すとなると時間がかかる。
「はぁ...仕方ない、遠出しよう。その前に師匠に一言言っておかないと」
つい数週間前のことだが、食事のために周辺の魔獣を食い荒らしまわり2日帰らなかったことがあった。
戻った時に師匠とエレちゃんに正座をしたままこっぴどく叱られ、遠出をするときは事前にどちらかに知らせることを約束した。
思い立ったが吉日、早速私は食糧調達の為しばらく遠出することを伝えるため、新技の
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「到着!」
「む?そんなに急いでどうした?何か相談事か?」
師匠は休憩中だったのか、胡坐をかいてのんびりしていた。
私は目の前に降り立つと、早口に要件を言い急かす。
「お腹減ったから遠出して食糧調達してくる」
「あまり長い間の遠出は心配するからするな。最長でも3日にしなさい」
「わかった。それじゃあ行ってくる」
許可は貰った。こうなればこちらのもの。
3日間食べれるだけ食べて貯めておこう。
たとえその地域の魔獣が絶滅したとしても....
私は溢れんばかりの食欲を抑えながら、
「最近尻尾の存在を隠さなくなってきたな。昔は見せようともしなかったが、何か心境に変化でもあったのだろう。全く楽しませてくれる弟子だ。うかうかしているとあっという間に抜かされてしまう。修行だ修行!」
そういって凶拳李も早めに休憩を切り上げ、修行に戻るのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
とりあえず跳んでみたのはいいものの、方角を見失わないようにしないと迷子になることも十分にあり得る。
冥界は似たような景色が多く、何度も迷子になりかけた。
空中にいる間にぱっと見て目印になりそうなものをいくつかピックアップすると同時に、着地地点に障害物がないかを確認するが、魔猪が着地地点を歩いている。
「到着!」
特に避けるようなことはせず、そのまま魔猪の頭を踏み潰した。
グシャッと音を立て、頭蓋と血と脳を撒き散らしたが、冥界の寒さですぐに凍り付き頭部のない死体はバランスを失い倒れ、魔猪の絶命を告げた。
「さて、早速一体仕留めたから食事にしますか」
そういうと尻尾が裂け魔猪に食らいつく。
尻尾の口よりも大きめのサイズだが、特に苦も無くバキボキと音を立て魔猪を食べていく。
前は私自身も食べていたが、栄養や満腹感も共有されるので、いつしか私自身が食事することは無くなった。
出来るだけ大量に食べ、浮いた時間を少しでも研鑽のために使いたい。
効率重視、それを行うたびに私の中で人間性を失い、お母さんからの愛情さえも失い始めていることに私はまだ気づかない。
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