第4話
私の師、凶拳李と出会い一ヶ月が過ぎた頃、私は自身の特性について大まかに把握し始めていた。
師匠と同じ修行を熟すも全く身体に反映されることがなく、体形がそのままの状態で力ばかりが強くなっていった。
現在では、師匠以上の技を習得しているが、戦闘経験の差でいつも敗北してしまう。
しかし、初日あれだけ傷を負ったものの、最近は大きな怪我を負うことも無くなり、例え負ったとしても瞬く間に治るほどの回復力を得た。
「弟子よ、別に身体が小さいことを気にする必要はないぞ。確かに大きな体躯に強い力が加われば強い。しかし、小さい身体というのは速度に優れるものだ。その速度に力が乗れば我には開けない道が開けるのではないか?」
「さらっと私の気にしてることを言うの止めてもらえません?」
ここ一ヶ月師匠と過ごし、信頼できる人物であるのは十分に分かった。
良くも悪くも己を鍛えることにしか興味のない脳筋。
しかし、面倒見の良さや包み隠さず物事を言ってくるのは人間不信の私にとっては好印象だった。
「この一ヶ月組手ばかりしてますけど、戦績的に負けてるほうが多いんですよ。手っ取り早く強くなる方法とかないんですか?」
「近道のことか?それならお前自身がそれを体現してるであろう。相手の技を数回見るだけで会得できるならそれ以上の近道はあるまい。才能に文句は言わん。それは決まっているものだから文句の言いようがないが、近道をすることは己の才を投げ捨てることと同じぞ?誰もが苦しいことや辛いこと、長い時間の要することはしたくないだろう。その苦行の中に近道があるとどうなると思う?」
「そりゃみんな近道を利用したくなりますよ。中にはしたくならない変人もいるでしょうが」
「皮肉を言われたような気がするがそのことへの言及は後にするとして、道というのは通行量が多ければ多いほど進みが悪くなっていく。その中で成熟すれば大成したであろう才能が熟れもしないまま世に出ると、結果挫折や困難が多くなる。だから修行は近道を選ばず多少遠いとしても積み重ねや遠回りが必要なのだよ」
確かに理屈としては通っているし、楽がしたいと思うのも人間の心理だと思う。
私は相手の技を会得できる才能があるが、そればかりに頼っていれば何れそこらの塵芥と変わらなくなるといわれたような気がした。
「さて、我への皮肉について言及するとしようか弟子よ」
「修行行ってきまーす」
師匠の言う言及は、ただの修行の一時停止のことである。
しかし、少しでも強くなりたい私は、一時停止で説教されるのは停滞を意味するのため絶対に避けたい。
私は自身の実験場がある渓谷に脱兎のごとく逃げた。
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「やれやれ、修行が中断されるのがそんなに嫌か。一目散に逃げていきおった。それで?いつまでそこで様子を窺っておるんだ?引きこもり女神」
「あんた次言ったら永久に鳥籠に閉じ込めるわよ」
「それよりもあの少女について知ってることを洗いざらい教えてもらおうか」
二人は向かい合い、その間には重い空気が流れる。
時間にして十数秒、先に口を開いたのはエレキシュガルのほうだった。
「少し昔話をしてあげる。多くの神話では、神の子供は英雄になる。しかし、神にはならない。人間の血が混じっているからよ。それは神たちの中では周知の事実。だけど、闘争を好む一人の神が自身の身体を使って作ったものは神になり得るのかと疑問を持った。その神は自身の二面性を二つに分けて二人の子を作ったの」
「突拍子もないことを考える神もいたものだな。だが、大抵の戦いの神は頭が足りないようなイメージがあるが、何故そのような考えに至ったのだ?」
「その神はね、破壊や戦争、殺戮を好んでいる反面、もう一方の影響で頭がよかったのよ。幾度も計画を試行錯誤したのでしょうね。その結果、最悪の計画へとたどり着いた。子供への愛情が狂気に変化するなんてよくある話よね。半端なものでは子供たちが可哀想、私の一部で作ればいいって結論づけたらしいわよ。ここまでが私の知ってる話よ」
「なんとも現実味がない話ではないか。畜生や人間の複製ならば可能なのだろうが、神を複製とはおとぎ話にもならんぞ」
「私だって聞いたときは頭おかしいんじゃないのと思ったわよ。成功例が来るまではね」
「彼女がそうだとでも言うのか?確かに色々納得出来る場面はあるが、彼女からは神の気配は感じぬぞ」
「私だってわからないわ。あと実験のことなんだけど、多分まだ続いているわよ。彼女がここに来る原因を調べてみたけど、彼女は目の前で村人に母親を殺されてるわ」
「ただの村人に神殺しが出来るとは思えんが?」
「その理由も解明済みよ。あれは、意識だけを移した義骸だわ。出力は本来の1/100にも満たない。それにわざと殺された風を装って自殺してるわね」
「それが母親がわが子に対してすることだとは到底思えんが、狂っておるな」
「実験がどこで終わりを迎えるのか私には想像がつかないわ。だけど、確実に言えるわ」
「「このままでは、大変なことになる」」
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「ここまで来れば逃げ切れたかな。最近は余分に出来たエネルギーは全部尻尾に回してるからそろそろ活動できるでしょ」
ここに来たばかりの時、師匠に黙って尻尾を出すと寒さが原因なのかカチコチに縮こまってすぐに戻ってしまった。
動物の尻尾とは違い、私のは液体のようなものだから寒さに弱いのだろう。
少し前からこの渓谷の一角に私の実験場を作り、尻尾の研究をしている。
「えーっと、前回は何処まで実験したっけな...?」
慣れた手つきでエレちゃんに貰った用紙をペラペラと捲り、最新の日付を探す。
私自身も手探り状態で尻尾のことを調べており、何が出来て何が出来ないのかよくわかっていない。
「あった。前回は形状変化と捕食実験だね。形状は結構自由で身体に纏わせて鎧に出来るし、尻尾一本ずつが武器になるから戦いでは有利。有機物ならなんでも食べてエネルギーに出来るし共有もできる。なんで生えたかは不明なんだよね」
そう言いながら崖っぷちに立ち、飛び降りる体勢に入る。
尻尾を飛び降りた瞬間に私を包み込めるように準備を始め、私は重力に身を任して崖下へと落下した。
飛び降りて直ぐに意識が途切れかけるが、実験結果をその目で見るまでは何度も行う予定だ。
しかし、時間は有限であり余計な手間を増やしたくはないので、自身の小指をへし折り痛みで意識を保つ。
尻尾が私を包み込んで数秒後、衝撃が私に伝わるがそこまで大きなものではなかった。
折れた小指を再生させ、尻尾を駆使し崖を登った。
事細かに今回の実感結果を用紙に書き込み、私はほとぼりが冷めるまで次の実験を続けた。
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