第2話火曜日

  二



「昨日、失恋した」

 デジャブかなと思うくらい一言一句違わず、更には僕の隣に張り付くように座るというのも昨日とまったく同じようにしてきた。

 というかこいつ今日も振られたのか。昨日の今日だぞ。さすがに見境がないのではと心配になっていると、昨日と同じように僕が聞こえていないと思ったのか「昨日、失恋した」と同じことを言った。

「……また振られたの?」

「また? 私が頻繁に振られてるみたいな言い方しないで」

「二日連続で振られていれば誰だって同じこと言うと思うけど」

「これだから恋愛を知らないお子様は困るわ」

 呆れたというよりは馬鹿にしているといったニュアンスで言ってくるが、別に恋愛しているから偉いというものではないと思っている僕は何も感じなかった。

「振られ続けて未だ恋愛初心者から抜け出さない人に言われても説得力があまりないね」

「昨日に限らず昔からそうだけど、お前は何でちょくちょく煽ってくるの」

 僕にそういった意図はないが、はたから見るとそう見えることがあるらしい。気を付けなければ。

「で、そういえば昨日も訊きそびれちゃったけど、誰に告白したの? 差し支えなければご回答お願い致します」

「いや、何で最後そんなに堅苦しい言い方なんだよ」

 今度は気を付け過ぎてしまったみたいだ。加減が難しい。

 呆れた様子ではあったが、特に誰に告白したか隠すつもりはないらしく「○○よ」と、素直に教えてくれた。

「○○? あー、あいつね。わかるわー」

「いや、それ絶対わかってないときの反応じゃん」

 訝しむというよりはもはや睨み付けるように僕を見る真妃。

 辺りに人がおらず、たまに風で揺れる木々が真妃の迫力でびびっているかのようだった。

「同じクラスの○○よ。お前はクラスメイトの名前もわからないのか」

 そう言われてよくよく思い返してみると確かにそんな奴いたような、いなかったような。

「っていうかお前の前の席の奴なんだけど」

 思い出した。前に座っているやたらとでかくていつも黒板が見えにくく、心の中で「独活うどの大木」と呼んでいる奴だ。

「その独活の大木くんが好きなのか」

「そういう言い方は心の中だけにしろ」

 どうやら心の声が現実に反映してしまっていたようだ。

 それにしても真妃は『独活の大木』の意味をちゃんと理解していることに驚いた。正直、伝わらないだろうと思って安心して声に出したのに失敗だった。

「えっと、それが昨日告白した相手? それとも一昨日告白したのが大木くん?」

 気を取り直して質問すると「同じよ」という素っ気無い返答があった。

「え」

「だから同じ。同じ人に告白してるの」

「なぜ」という言葉が出てきたけれどなんとか飲み込んだ。おそらくそれに対する返答は「好きだから」の一択だろう。

「何で同じ相手に二度も告白してるんだこいつ、って顔してるわよ」

 ため息交じりにそう言う真妃は面倒くさそうにというよりは少し恥ずかしそうに語った。

「そんなの好きだからの一言に尽きるけど、それでも理由をつけるなら」

 一回言葉を区切る。

「何回も告白すればいつか叶うんじゃないかっていう淡い期待かな。その結果、嫌われてしまうかもしれない可能性も充分に、というかそっちのほうが可能性は高いけれどそれでも構わない。だって、好かれないなら意味ないから」

 真妃の目を見据える。恋する乙女とは言い難いけれど、そこには確かな想いの強さを感じた。

 同世代がする恋愛とは少し違う熱量なのかもしれないけど、僕はそれのほうが良いと思った。

「なるほどね。ま、確かにやらなきゃ可能性は無いけど、やれば少しは可能性が出るからね」

「そ、だから明日も告白する」

「うん。頑張って」

 真妃は笑いながら「うるせー」と小突いてきた。

 そこにいつもの凶暴性はなく、女の子らしい一面を垣間見た。



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