失恋Weekly
高梯子 旧弥
第1話月曜日
一
「昨日、失恋した」
そう言って腕を組みながら僕の隣に座る。
僕は何も許可していないが、よくよく考えたら公園のベンチはみんなのものなので許可などいらない。けれども隣にぴったり張り付くように座るなら少しくらいの断りがあってもいいのではと思った。マナーとして。
「昨日、失恋した」
僕があまりにも口を開かないものだから聞こえていないとでも思ったのか、同じ言葉を発した。
僕が欲しかった言葉はそれではないのだけれど、ここで沈黙を保ってもどこかに行ってくれる様子でもないので仕方なく口を開く。
「おめでとう!」
「お前、失恋した幼馴染みに向かって慰めとかないのかよ!」
「いやだって、
そこまで言いかけたところで真妃にグーで思いっきり頬を殴られた。痛い。
「なんてことを言うんだ!」
「小学校低学年からの付き合いだけど、真妃の振られたって報告は何回聞いたかわからないくらいあるからしょうがないだろ」
「そんなたくさんないだろ! 年に一、二回しか振られてないもん」
「年に一、二回って多いんじゃないか? よくわからんけど」
「はっ、そういうお前はどうなんだよ! 何回失恋してきたんだよ!」
「いや、僕はそこまで恋愛に興味ないし、告白したことないから振られたことないよ」
「へっ、ただのチキン野郎ってか!」
いつの間にか立ち上がり、大きな身振り手振りで海外ドラマでよく見る人を茶化す人のような仕草をする。
何でそんな欧米みたいなリアクションをとるんだろう。失恋し過ぎておかしくなったのか?
特に心配になりはしないが、いくらひとけのない公園とはいえ、こんな馬鹿なことをしている女子中学生と一緒にいると思われるのも嫌なので適当に宥めてベンチに座らした。
「ごめん、僕が悪かったよ。確かに過去振られ続けているのと今回振られた理由は関係ないもんね。逆に今まで順調に来てても振られる可能性があったってわけだし、そう考えるとむしろ今回は順当だったと言えるね」
「お前、慰めてるのか喧嘩売ってるのかどっちだ?」
いかん、せっかく宥めたのにまた臨戦態勢に入ってしまった。
僕は昔から一言余計だと言われることがあったから気を付けているつもりでも気が付いたときにはこうなっているからタチが悪い。
「ま、まあ何にせよもう終わったことだし、新しい恋をすればいいんじゃないかな」
慌てて取り繕った言葉だけれど真妃は「そうだよねー」と、地面を踵で掘りながら答えた。
真妃も僕に慰めてほしいからここに来たわけではなく、ただ憂さ晴らしをしたかっただけなのかもしれない。……憂さ晴らしに付き合うのは嫌だけれど。
しばらくそのまま地面を掘っていたかと思うと、いきなり立ち上がり「帰るわ」と告げ、公園の出入り口へと向かっていった。
何歩か進んでから僕のほうへと振り向き、「明日も居る?」と訊いてきたので、肯定の意を返した。
それを見た真妃は軽く頷いてまた出入り口に向かって歩いて行った。
本当は一人でゆっくりできるこの空間に侵入してきてほしくはなかったが、なぜか断ることができなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます