エピローグ

あの後、私は気になってその墓について調べてみた。

すると、墓の持ち主の日記が出てきたので、課題をほったらかして今読んでいる。

墓の持ち主はこのあたりの商人だったらしい。しかし、その規模は対して大きく無かったことから、奉公人も少年のころから雇っているただ一人だったようだ。

日記には口数が少なく、愛想がないなどなかなか好き勝手言われている。

でも、主との仲は良かったようだ。

ときどき、……本当に時々だが、褒め言葉らしきものも書かれている。

忙しくて、楽しい、日々の記録。

でも、最後のページだけは、違った。

そこに書かれた文字は拙い物だった。

書くことに精通していない別人が書いたようだ。

そのページには、ありったけの悲しみが込められていた。

それから……自分への恨みも。


ある日、最後のページを書いた彼は(以下彼とのみ称す。)主から使いを頼まれて港へ向かっていた。

使いっ走りはよくあることだったし、港までの道は何度も行っていたから、彼はこの景色も見慣れてつまらないと思って、普段は通らない道を通っていた。

そして、迷った。

夜になってもどこか分からず、それでも家へと続きそうな道を走っていると、いつの間にか花町に迷いこんでしまっていた。

さすがに疲れて座りこんでいると、たまたま酔っぱらった士族に足が当たってしまった。

その時代、大政奉還が行われたことにより、元武士である士族たちの生活は急激に苦しくなってきていた。生活を工面しようと必死にあがく者もいたが、そのまま威張り続けて、没落する者も多かったそうだ。

彼の足に当たったのは、そんな奴だった。

運が悪いとしか言いようがない。

それからの展開は、文字がぐしゃぐしゃ過ぎて分からなかった。

ただ最後は、彼の主が、彼をかばって刺されたようだ。


きっと夜になっても帰ってこない奉公人を主は必死に探していたのだろう、幽霊になった墓の主の着物の裾は、泥で汚れていた。

そして、見つけた所に刺されそうになっている彼がいたのならば、選択は一つしかない。

私からは見えなかったが、あの藍色の羽織の下には刺された痕があったのかもしれない。

奉公人は自分を恨んでいた。それはもう、今すぐ死んでしまいたい程。

でも、ここで死ねば、主が悲しむことぐらい、彼にも分かっていた。

だから、生きることにしたようだ。

主の事を祈るために。


「……。」

私は、そっと日記を閉じた。

彼は、いったい何年さまよい続けるのだろう。

いったい何年祈り続けるのだろう。

死んでもなお、この世にとどまり続けて祈る。

墓の主の悲しい笑顔の意味が、ようやく分かった気がした。

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冷雨 ー雨の中で見つけた傘ー @hosikagami

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