第13話 13

「退治するのか・・・」


モーリスさんが呟く。モモは驚いている。


「え?放っておくという選択はないでしょう?」


私はあると思うけど。


「放っておけば放っておくほど、巨大化するんだよ。じゃあ、まだ叩けるうちに殺しちゃわないと。」


まあ一理ある。


モーリスさんが、


「いや、あれを一人で征伐するのは、うーん、お前だって、無理だって言っていたよな。」


と、困惑している。


モモは、


「いや、一人じゃないよ。私たち3人がかりで殺るの。」


と当たり前のように言い放った。


「ふ、ふぇっ?」


思わず変な声が出た。


モーリスさんが、あたふたと止めだした。


「いや、おい、待て。俺とお前たちとでか?コカトリスを?正気か?お前たちにできるわけがなかろう!」


モモは落ち着いたものだ。


「私たちが一番コカトリスのこと知ってる。彼奴の弱点も動きもわかってる。大丈夫だよ、ちゃんと策はある。」


そうなの?私はコカトリスの弱点なんて知らないけど。


「策って、お前・・・」


モモの講釈が始まる。


「あれは本当に鶏なんだよ。凶暴な性格もそうなら、動きもそう。そこを利用して・・・」


モーリスさんが慌てる。


「ま、待て。解った。倒さなければいけないことは解った。人手を集めてくるから待っていろ。これでも王都に行けば、仲間や友人はいるんだ。小隊とまではいかないが、手助けしてくれる奴らを連れてくるから。」


モモは動じない。


「その人たちって、『ハイランド家でやれ』っていう王様の命令に背いてここに来てくれるの?」


「・・・・」


モーリスさんの返事はない。


「お父さんのところからは絶対誰も助けに来てくれないよね。モーリスがいなくなってずいぶん立つんだろうに、誰も探しにも来てくれないじゃん。」


「・・・・」


モモさん、おっしゃる通りですが、モーリスさんは病み上がりです。その辺を少しは汲んであげましょう。


「ということで、3人でやる計画を立てました!」


モモがにっこりする。悪い予感がするなぁ。


モーリスさんはとにかくモモを止めるつもりだ。


「3人でだと?なぜお前がそんなにがんばらなきゃならんのだ?俺の責任だ。俺がやる。弱点を教えてくれれば、俺がコカトリスを殺すから。」


モモがモーリスさんを睨んでいる。


「なんでモーリスの責任なの?まだそんなこと言ってるんだ。


コカトリスは誰の責任でもないよ。皆の脅威だよ。森に逃げ込んだ私とママをふざけ半分に追いかけて、ママを傷つけたのもコカトリスだからね。モーリスが居なくても、いずれは私が殺るつもりだったんだ。」


ふむ。まあ、そんなところかなとは思っていたけれど。


モーリスさんが視線を落とした。


「そうか。親の仇か・・・だが、危険すぎる。コカトリスがお前の生活を脅かすなら、森から出て行けば良い。村で暮らせ。」


モモは鼻を鳴らした。


「嫌だね。村のやつらなんて大嫌い。まだ小さかった私とママを追い出したんだから。」


モーリスさんが訝しげに尋ねる。


「なぜだ?」


「多分だけど、私が魔力持ちだったから。まだ魔力をコントロールできないから村では忌み嫌われてたのはぼんやり覚えてるんだ。だから魔女兵士として国に徴兵されるまで、どっかに閉じ込めるつもりだったんじゃないかな。そうなる前に、ママは私を森に住んでいるっていう噂の魔女先生のところに逃がそうとしたんだと思うよ。先生がもう亡くなってたとは知らなかったし。」


モーリスさんが呟く。


「確かに魔力のある平民は、たとえ女性とは言え戦に駆り出されるだろうな。

そうか。コカトリスとは共存できないし。うーん、どちらにしても危険か。」


どうやら森から出ていくことも、コカトリスを放置することはできないようだ。


モモは説明を続ける。


「コカトリスを殺すのであれば、頭を落とせばいいのよ。弱点は首。あの獲物を狙って、ヌーっと首を伸ばして嘴で地面を突いている瞬間を狙って・・・」


モモが両手を羽のようにバタバタさせ、自分の首を伸ばし、地面に向かって頭を落とす。鶏の動きの真似らしい。


「上から首を落とすの!」


今度は、手刀を作って、自分の頭の後ろを叩いている。


モーリスさんは、ため息混じりに


「いや、もう、どこから突っ込んでいいかわからんな。まず、彼奴の鱗だ。堅すぎる。刃を跳ね返すほどではないが、一気に首を切り落とせるほど柔らかくもない。俺が満身の力を込めても2、3太刀は必要だ。その間に反撃されるだろうな。」


と、反論した。


モモの顔を見ると、しっかり回答を用意しているようだ。


「大丈夫、あの鱗は、火にそんなに強くない。燃えるのよ。コカトリスの脱皮した皮で、何度も試し済みよ。私が火炎を放って、鱗を焼いて弱くするから、その瞬間を狙ってね?」


モモが、にっこり微笑んで、モーリスさんを見る。


モモよ、いつのまにそんなことをやっていたんだ?


モーリスさんの応酬が始まる。


「そんな、俺の待ち構えているところに都合よくコカトリスが来て、首を伸ばしてくれるわけがなかろう!」


ああ、背筋がゾクゾクする。


モモのにっこりは消えない。


「そこは、囮を使うのよ。ドロレスがコカトリスをおびき出すの。」


やっぱり。


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