第6話 6
男が曲がりなりにも体を起こすようになるまで、さらに2日かかった。具のないスープから、徐々に固形物も食べられるようになり、フラフラはしていても、ベッドから出てテーブルまで歩いてきた。
ここに至るまで、モモは火傷に油を塗ったり、傷の包帯を変えたりと、大忙しだった。男がベッドから起き上がったり、立ったりできるようになると、
「よくできました!」
「上手、上手!」
と、声を掛ける。その度に男は私の方を恨みがましい目で見るけれど、私のせいじゃないよ、やめておくれ。
ついにテーブルにつけるようになった男は、私たちの方を見て、
「世話になった、モモ、そしてモモの母上。」
と、まず挨拶をした。
モモはすかさず、
「ママじゃないよ。」
と切り返す。不思議そうに見返す男に、私は、
「私はモモの母親じゃないよ。まあ、そうだね、モモの母親に頼まれて、しばらくの間、面倒を見てるだけさ。私の名はドロレス。」
と言った。
男は、
「そうか。」
と、呟くと、自己紹介を始めた。
「モーリスだ。モーリス・ハイランド。近衛騎士団に所属している。」
やっぱり苗字持ちか。錆びついた丁寧な言葉遣い復活させねば。
モーリスさんが続ける。
「この森にはコカトリス征伐の命を受けてやってきたんだ。見事失敗したがな。何はともあれ助かった。この恩は忘れぬ、ありがとう。」
どういたしまして、と言おうとして、ハッとした。
「コカトリスの征伐って、他の人たちはどうなったんですか?みんな散り散りバラバラに逃げた?」
モーリスさんは静かに首を振った。
「いや、他の騎士はいない。征伐の命を受けたのは私一人だ。」
「「えー!!」」
モモと二人で声を上げた。私は、思わず言い募ってしまった。
「どれだけ腕が立つか知りませんけど、彼奴は一人で倒せませんよ。この森でも圧倒的な強さを持つんだから。何でまた一人で・・・」
モーリスさんが苦笑いをしながら話を続ける。
「負けて恥を晒した後だから言いにくいが、これでもなかなかの使い手のつもりなんだがな。まあ、王命なのだ。コカトリスを倒し、この森を領民が使えるようにしろ、とな。」
「それにしても、なぜ一人で。真剣にコカトリスを倒したいのなら、一軍隊送ってきたっていいじゃないですか。」
そんなことをされると、人目を避けている私には大迷惑だ、とは思いつつ。
「事情があって、自らの手で、ハイランド家の汚名を晴らせと言われてな。コカトリスはハイランド家の問題だ、ということで。」
モモの顔がいきなり輝いた。
「あっ、そうか。モーリスって、魔女先生の息子だ!」
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