第5話 5
あれから5日。男が誰なのか、なぜあんなところにいたのか、その事情はまだ聞き出せていない。
なぜなら、男が高熱を出し、意識は回復しないままだから。汗もかかずに熱に浮かされている。最初の2日は、とにかく頭を冷やすことに集中した。モモと交代で数分おきに熱冷ましのタオルを取り替える。正直 言って、助かるとは思えなかったけれど、私たちは、同じ作業を黙々と繰り返した。
男の唇が、熱と乾きでひび割れてきた時は、濡れた布で、何度も唇を湿らした。3日目になってようやくそれを舐めるような仕草をしたので、口の中にも水を垂らす。様子を見ながら、ちょっとずつ口の中に落とす水の量を増やしていった。4日目にはごっくんと喉を鳴らすようになり、本日5日目に至る。
火傷には脂薬を塗ったくったけれど、この傷跡は消えないだろうなあ。胸の切り傷には傷薬を付けた。幸いにも化膿する気配はない。
5日目の夕方になって、当番のモモが声を上げた。
「起きた!」
走り寄ると、お互いに不思議そうに見つめ合うモモと男がいた。
「モモ。」
モモが自分を指差して名乗る。男はモモを見たまま、何も言わない。モモがもう一度、
「モモ。」
と、自分の名前を告げた。問いかけるように眉を上げるが、男は名乗る気がないらしい。
漸く発した言葉は、
「ここに住んでいた魔女はどうした。」
だった。
ふむ。熱で頭をやられたのでなければ、どうやら曰くがあるようだ。
ここで、私がモモから会話を引き取った。
「長い話になるから。まずは水を飲んで、体力回復させなさいな。あんた5日間も意識を失ってたんだよ。」
男は再び目を閉じると、
「ああ、頭がガンガンする。」
と囁いた。脱水症状かも。
「モモ、白湯を持ってきて。」
モモが席を外している間に、
「名乗る気もないようだけれど、それならそれで構わないよ。あんたも目が覚めたばかりでよく分からないことばかりだろうし、落ち着くまで、ゆっくりしな。まずは、起き上がれるようになるまで、面倒は見るよ。こっちは時間だけはたっぷりあるんだから。」
と、男に伝えた。どこかの偉い貴族さんかもしれないから、敬語を使うべきだろうか。まあ、この森の中では身分もへったくれもありゃしないだろうし、とにかく様子見だ。
モモが白湯を持ってもどり、少しずつ男に飲ませる。
「いっぺんに飲んじゃダメ。」
モモは噎せないようにしっかり白湯を飲み干した男の頭を、ポンポンと叩く。
「よくできました。」
褒められた男は、驚きの視線をモモに送っている。
やれやれ、こりゃ拾ってきたペット扱いだね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます