第7話 7
モーリスさんが険しい目でモモを睨む。
「なぜ、そのことを知っている!」
魔女先生って、モモがこの家の先住人を呼ぶ時の名前だ。
モーリスさんの視線を全く気にすることなく、モモが返事をする。
「私、魔女先生の日記、何度も読み返してるもの。たくさん出てくるよ。モーリス、モーリスって。」
そういえば先住人の日記をモモはよく読んでいる。私は魔法に興味がないので、ざっと目を通したことがあるくらい。日記が結構暗くて気分が落ち込むので、何度も読む気が起きなかったのだ。
息子の名前忘れてた。
モーリスさんは呟くように、
「・・・そうか、そんなものがあるのか。」
と、いうと顔を上げて私たちを見つめた。
「で、この家に住んでいた魔女はどうした?」
モモはちょっと膨れて、
「やあねぇ。お母さんでしょう?」
と返事をする。モモにとっては母親は絶対なのだ。
この質問には、私が答えたほうがよいだろう。
「残念ながら、私がこの家にたどり着いた時には、お母様はすでにお亡くなりになってました。モモが来るずっと前のことです。ご遺体はこの家の裏に埋葬してあります。」
モモが付け加える。
「私のママの隣よ。」
どちらも獣に荒らされないよう、私が苦労して深い穴を掘らせていただいた。まあ、そんなことはどうでもよいが。
その覚悟は有ったようだ。モーリスさんは、私に、
「なぜ死んだんだ?」
とだけ聞いてきた。
「わかりません。でもお亡くなりになったのはベッドの上でしたし、特に苦しんだような様子もありませんでした。」
私も簡単な事実だけを伝える。すでに白骨化していた、なんてことは、知る必要のないことだ。
「そうか。」
モーリスさんは俯いたまま、考え込んでいる。
「私は事情があってこの森に流れ着いたんですが、お母様を埋葬した後、そのままこの家を使わせていただいていました。申し訳ございません。最初は誰か訪ねてくるのかと思っておりましたが、特に何のお問い合わせもなかったので。
その後数年して、モモが母親に連れられてこの家にやってきました。残念ながら、モモの母親は到着と同時に亡くなってしまい、私がモモを預かって育ててきました。」
モーリスさんの顔色は相変わらず冴えない。
「そうか。いや、家を使うのは別に構わない。確かにこの家はハイランド家が建てたものだが、とっくに忘れ去られてる。今更誰も気にしないさ。」
じゃあ、遠慮なく。
「この家に来たことがあるようなこと、おっしゃっていたような気がしますけれど。」
「ああ、幼い時に。魔女がこの家に移って来た時、俺もしばらく一緒に滞在したんだ。すぐに魔女に追い出されたがね。」
モモが苛立つ。
「お・か・あ・さ・ん。何で魔女先生のことお母さんて呼ばないのよ。」
モーリスさんが、残った片目で、モモをギロっと睨んだ。
「アイツはハイランド家の恥だ。アイツのせいで、ハイランド家は何度も辛酸を舐めてきたんだぞ。今回だって・・・」
モモは全くめげていない。モモに階級制度のこと説明するの忘れてたからなぁ。丁寧な言葉遣いは期待できないけれど、せめて怒らせるのはやめてほしいのだが。
「何よ!魔女先生が何やったっていうのよ。あっ。コカトリス?コカトリスをつくっちゃったから?」
すでに白かったモーリスさんの顔が青くなった。
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