第3話
あの後加藤大佐に案内され、基地の近くにある寮に入った。
案内された部屋は一人分にしては結構広く、テレビとある程度の本も用意されていた。
部屋を見て回っていると、チャイムが鳴った。
ドアを開けると、乱れた軍服を身に着けた頬に大きな傷のある中年の人が居た。
「俺は市川史郎、隣に住んでるものだ、これから宜しくな」
その人は、軍服着てはいるが、ボタンを留めてない上にシャツが出ていた。
一見だらしない格好だが、その肉体はガッチリとしていて、服の上からでも筋肉の筋が浮き出るほどだった。それに、軍服の襟には加藤大佐と同じ数の星が付いていて、少なくとも大佐以上の方だと言うことがわかる。
「お前さんが拷問官に任命されたとか言う中学生か、若いのに大変だなぁ」
市川さんはボサボサの髪をかきむしりながら言った。
改めて現実を突きつけられ、僕の足は震えだし、胸に締め付けられるような痛みを覚えた。
その様子を見て市川さんは、
顎を擦ると、
「………そうか、そりゃそうだよな…………よし!ちょっと待ってろ」
そう言うと市川さんは、自分の部屋に戻り、二人分の白ご飯と、タッパーに入れられた肉じゃがを取ってきた。
そして僕の部屋に上がると、それらをテーブルに置き、隣の座布団をポンポン叩いて、僕を自分の横に座るよう促した。
「俺はこんな成りだが料理は上手いんだ」
そう言いつつ、市川さんはタッパーを開ける。
確かにタッパーに入れられた肉じゃがはいい匂いを放っていた。
「………これは?」
困惑しながらこの行為の意図を尋ねると。
「一緒に飯食うんだよ」
と当然のように言った。
「誰かと楽しく飯を食うとな、イライラとか不安でなんてものは吹き飛ぶんだよ」
そう言いつつ市川さんは肉じゃがとご飯を交互に食べだした。
それに続き、僕も恐る恐る肉じゃがを食べると、肉じゃがはとっても暖かくて、体の芯から温まる気がした。
「美味いだろ?お前さんの仕事は大人でも泣き出しそうになるものだろうけど、辛くなったりしたら家に来るといい、これくらいの料理なら出してやるからよ」
すると、今まで押し留めていたのが溢れたように、無意識に僕は涙を流した。そして、肉じゃがを口いっぱいに頬張った。
市川さんはそれ以上何も言わなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます