第6話 戦うウェイトレス

先のスライムが現れての逃走があってから俺たちはダンジョンに潜るために再び歩き出した。


「今度からはちゃんと警戒してください。そんなんじゃダンジョンに着く前に食べられちゃいますよ」


「そんな…………つまり俺達がここでやられるって事は体の原型がなくなり、全身のあちこちに歯型がついて食い荒らされてるってことか?」


「はい、だいたいそうなります。でも、そこまでの状態ならまだマシですよ。普通なら骨までしっかりしゃぶって遺体そのものが無くなっていてり、丸呑みされることもあるので行方不明のことが多いんですよ」



 改めてさっきまで自分がしていたことが、どれだけ軽率だったか、あと少しのことで自分がそうなっていたんじゃないかと思うと背筋がゾクゾクする。


「わかったよ。今からちゃんと気おつけるから」


「あと、単独行動もしないようにして下さい。仲間から離れると不意な一撃をモンスターからもらいそのまま食べられて、家族からも仲間にも死を知らせられることなく終わるんですよ! さっきだってカオルが背を向けて走り出したとき、私が追いかけてなかったら危ないところだったんですよ」



 俺はそんな恥ずかしいことをしてたのかよ、スライムに背を向けて走り女の子に助けてもらってたって……頭があがらん。


 真剣な眼差しでこちらにもうやるなと、言わんばかりに睨んでくる。


「ほんとに次からはしないで下さいよ。今死なれたら困るんでるんですよ」



 こんなにもたくましい大剣担いだウェイトレスことフユにいったい何があって5000万なんて莫大な借金をしてしまったのだろうか。


「なぁ、どうし……」


「ん? どうしたんですか?」


「いや、なんでもない」


「なんですか、ちゃんと言ってくださいよ」



 考えてみたらこんなことを聞いたら、フユはきっと答えにくいはずだ。


 でも、ホントは知っておきたい。


 しかし、結局はチキンハートなので途中でやめていた。



「もう、気になるんじゃないですか。言わないと愛剣で体を一刀両断にしますよ」


「止めて、止めて冗談でもそれは止めて、さっきの見てたらホントになりそうで恐いから」


 スライムとはいえ犬をあっさりと一撃で真っ二つにしてしまったのだ。


 おそらく、その気になればあっさりと俺なんかは体とおさらばするだろう。


 そんなスプラッターアクションみたいなことには誰だってなりたくないだろう。



 うん、話題を変えよう。


 いつまでもこの話題だとさっきまでの自分の恥ずべき行動を引きづらなければならないし、何よりもきまづいから。



「そういやフユ、お前ってあのギルドではどうゆう立場だったんだ? 出迎えてくれた時といい今といいそのウェイトレスの服装、あのとき中には誰もいないよう様子だったけど」

「え、そりゃもう加入者を迎え入れるんですからギルドマスターに決まってるじゃないですか」

 えっ…………ギルドマスター? 確かに頼りになるし知識も経験も携えてるようだけど、このウェイトレスがギルドマスター? あといつまでその大剣持ってるんですか?重くはないんですか?



「なんたったって私が作ったギルドなんですから当然です。あと中には私以外にも2人はいましたよ。そんな私が一人でいる寂しいやつみたいに言わないで下さいよ」


「えっ、でも俺が扉開けて入ったときは誰もいなかったぞ」


 そうだ、おそらく障害忘れはしないであろう生まれて初めて借金の取り立ての現場に居合わせたこと、確かにあのときはフユしかいなかった。




「まぁ他二人は中にいると言ってもギルド内にある個室に籠もってることが多いので…………」


 てっことはつまり……たった4人しかいない弱小ギルドじゃんか! それで5000万も集めるなんてどこのマゾゲーだよ。


「ちなみにその二人ってのはどんな人? 男? 女?」


 そう、これは重要なこと返答次第じゃ俺の諦めていた異世界ハーレムが爆誕する可能性を秘めている!あっやばいなんか考えらワクワクしてきた。




「一人は女性の方で召喚士サモンナーですね、もう一人は一応男性の方なんですけど気が弱くてあまり戦う! って感じじゃなくて後方で癒術士ヒーラーをしていますね」


 たくっ男がいんのかよ! 空気読めよ ここは事如くテンプレ展開をさせたくないのかよ! だいたい男が癒術士ヒーラーって何? 誰得なの? 男に癒やされるって一周回って拷問じゃん! とゆうか普通なら可愛い僧侶とかがやってくれるもんなんじゃないの? 




「でも二人とも凄く、癖が強いとゆうか個性が豊かな人で」


 いや、大剣振り回すメイドもなかなか癖が強いんですが……


「あぁ、あまり、人付き合いとかの心配はしないで大丈夫ですよ。帰ったら挨拶して回りましょう」




 ベチャ


 液体のような何がフユの体めがけて降ってきた。


 それは、どこか泡だっていてテカリが見える。


「キャァーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 そう叫ぶとフユは今まで手に持っていた大剣を構えて、辺りをみ渡した。




 そういえばさっき、辺りを警戒しておくようにと言っていた気がする。


 喋るのに夢中になってて忘れてたけど。


「あの、憎きリヤマめどこだ! 見つけたら八つ裂きにしてやる」


 さっきまでの、おしとやかなフユはもうそこにはなく今はただ純粋に殺すとゆう怨念に取り憑かれたかのように殺意に満ち溢れて、今にも俺にまでその殺意が飛び火するのではないかと言わんばかりに恐ろしいい状態になっていた。




 そもそもリヤマってなんだ?


 しかし、そう思っている俺を置き去りにしてフユは何かを察知したのかもうスピードで走っていく。


「あのさっきまで単独行動は止めろって言ってませんでした?」


「今はそんなことよりもリヤマを、よくも私をこんな目に」


 その様はウェイトレスの格好をしてるのにもかかわらす、俺にはまるで歴戦の戦士を彷彿とさせるような印象を与えてきた。


 いったいリヤマって何なんだ……




「あいつ、絶対、許さない」


「あのキャラ崩壊しかけてますよ。そんな一単語ずつしか言わないような狂戦士にならないで下さい。自我を取り戻して!」


 そんな呼びかけに応えるわけでもなく走っていく。




「リヤマ、見つけた、絶対、殺す、お前、許さない」


 とうとうそのリヤマと言うのを見つけることができたらしいが、どんな鋭い感覚をしてるのかそこにたどり着くまではかなり走った。


「一旦落ち着いてもう体感的には300メートルは全力ではしってるから、少し休憩」




 そんな呼びかけに応じるわけでもなく、目下にある土を乱雑に大剣で滅多刺しにし始めた。


「死ね、死ね、死ね、よくも私をこんな目に」


 土に大剣で刺す豪腕や恐ろしい形相はもはや人ではなかった


「鬼だ…………ウェイトレスに扮した鬼だ……」


 おそらく下から血のような赤い液体が染み出てきているのできっと何かを刺しているのだろう。




 しばらく滅多刺しにしたあと満足げな顔をしてこちらを向いた。


「すいません、少し害獣の駆除に夢中になりすぎてました。あと私から誘っておいて何なんですけど、もう帰りません?体中が気持ち悪くて嫌なんです」


「はい、そうしましょう」


 何か言おうなんて思いもしない、今目の前で何が起きた何らかの殺戮ショーの強烈さに慄きただ黙って頷いた。

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