第51話:奮い立つ唄のガンダイン
「……ほお。中々褒めるのが上手いじゃねえか」
「あー、いや。本気ですけど」
雄太がそう言うと、ガンダインはニイッと口の端をあげて笑う。
「ははは! 見りゃ分かるって! 面白ぇ奴だなお前は!」
「いて、いってえ!?」
背中をバンバンと叩かれて雄太は思わず姿勢を崩しそうになるが、バーンシェルが間に入って支えてくれる。
「おい、いい加減にしとけよジジイ。こいつは別にそういうのじゃねえから」
「そぉかあ? 資質はあると思うがなあ」
「ねえよ」
楽しそうなガンダインと、不機嫌そうなバーンシェル。
対照的な2人に「何の話だ?」と思わず雄太は聞いてしまうが……そうすると、ガンダインが「興味あるか?」と身を乗り出してくる。
「まあ、つまりお前が唄になるような男かって話なんだがな」
「え? いやあ、ふへへ」
「気持ち悪ィな」
思わずニヤけてしまった雄太にバーンシェルからの容赦ないツッコミが入って、雄太は一瞬で落ち込む。
キモイとか臭いとかは、アラサーには一番の禁句だ。
「……落ち込んでんじゃねえよ。悪かったよ、言い過ぎたよ」
「……おう」
「あはは! ほんっと面白ぇな!」
気遣うバーンシェルが面白かったのかへこんだ雄太が面白かったのかは分からないが、ガンダインはその大きな体を揺らして大笑いする。
大分豪快な性格であることは雄太には充分分かったが……。
「えーと……ガンダイン、さん?」
「おう、それだ。ガンダインでいいぜ。敬語もいらねえ。堅苦しいだろ」
「え? あー……それならえっと、ガンダイン。まさか、本当に俺に会いに来たのか?」
「そう言ってんだろ」
アッサリと肯定されて、雄太は思わず鼻の頭を掻く。
自分がそんなにたいした人間でないことくらい、雄太自身が知っている。
だからこそイマイチ信じられなかったのだが……アルシェントの言っていた事が、頭の隅に残っている。
「それって……アルシェントが言ってたみたいに、邪神と人間じゃ普通は上手くいかないから……みたいな?」
「ん? なんだそりゃ。実際上手くいってんだろ?」
「あー……まあ」
「なら自信持てよ。言っとくけどよ、邪神と人間が一緒に暮らしてるなんて事例、過去にねえからな?」
アッサリと、アルシェントの言葉の全てが否定される。
ならばやはり、アルシェントの言っていたことは不信や不和を招くための嘘だったのだろうか。
そんな風に雄太は考え……その肩を、ガンダインが叩く。
「なるほどなあ……うんうん、素直なんだなお前」
「ん?」
「嘘だよ。邪神と人間が一緒に居た事例なら唸るほどあるよ。どれも上手くいかなかったっつーのも事実だ。互いに利用しようとして破綻したんだ」
そう言うと、ガンダインは大きく笑う。
「ま、なんだ。俺やアルシェントみたいなポッと出た奴じゃなくてだな。一緒に暮らしてる奴を信用しとけってことだ! ガハハ!」
「あー……」
バシバシと叩かれた肩に痛みを感じながらも、雄太は苦笑する。
確かに、初めて会った人間の言う事を信用して一緒にいる相手を疑うのは愚策だろう。
無論、それが結果的に良い方向に向かう事もあるだろうが……。
「いや、まあ。その通りだな。ごめん、バーンシェル」
「何がだよ」
「アルシェントが何か言い出した時点で、跳ねのけとくべきだった」
「くっだらねえ」
雄太の謝罪を、バーンシェルは一言で切り捨てる。
「誰もお前に『盲目たれ』なんて言わねえよ。狂信者かってんだ」
「いや、でも」
「信じるってのは言葉面では綺麗に思えるけどな、妄信になった時点で「お前」は死ぬぞ。誰もそんなもんは望んでねえ」
ペッと唾を吐き捨てるバーンシェルに、雄太は困ったような表情を浮かべる。
仲間を信じるというのは当然のようにも思えるのだが、それを否定しているようにも聞こえたからだ。
「遠慮せずに疑えよ。好意を疑え、悪意を疑え。味方も敵も全部疑え。お題目を信じる程ガキでもねえだろう」
「そりゃまあ……」
「疑われもしねえなんざ、気持ち悪くて仕方がねえ。アタシが泥団子を美味いパンだって言ったら食うのかお前」
「いや、食わないぞ?」
「だろ? そういうこった」
バーンシェルはそれに満足そうに笑うと……すぐにその表情を不機嫌そうなものに変えて雄太に蹴りを入れる。
「つーか、なんでアタシがこんな説教臭い事やらされてんだ。こういうのはフェルフェトゥの担当だろがよ」
「いてっ!? なんで蹴るんだよ!?」
「ムカつくからだよ!」
ゲシゲシと蹴られる雄太を見ながら、ガンダインは楽しそうに笑う。
「ハハハ! あのバーンシェルがなあ……いやいや、本当に面白いものを見た。来てよかった!」
「うっせえ、見せもんじゃねえんだよ! 帰れ!」
「勿論断るとも。俺の来訪にはフェルフェトゥも気付いてるんだろう? こんな面白い事、俺も混ぜて貰わんとな」
そう言うと、ガンダインは風に乗ってふわりと舞い上がる。
「じゃあ、また後でなユータ」
「うっせえ、何が「後でな」だ! 帰れ帰れ!」
「ハハハ、断ると言ったろう!」
バーンシェルの投げる火の球を避けて飛んでいくガンダインを見送り……雄太は小さく溜息をつく。
たぶん、また一人村の住人が増えるんだろうな……という予感と。
まだ石を1個も切り出していないという、その事実に気が付いて。
「まだ何もやってねえのに疲れた……」
「鍛え方が足りねえんじゃねえのか?」
興味無さそうに言うバーンシェルに、雄太は「そうかもな」と答えながら肩を鳴らすのだった。
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