第46話:男湯、女湯4
セージュの魔法で浮いた雄太による石積みは昼以降も続き……いつの間にかやってきたベルフラットやバーンシェルを観客に加えながらも温泉の仕切りの壁、そして脱衣所の床と仕切りの壁が完成する。
「はあー……おつかれさま、セージュ」
「これで完成ですか?」
「いや、この後は脱衣所の床と天井……あ、そうか。この石材だと天井は作れないぞ……?」
何しろ、元々は村の石垣を作る為に切り出してきた石材だから、どれも小さめのものばかりだ。
大きめの石材を切り出しにいかないと、と溜息をつく雄太にバーンシェルが近寄ってくる。
「おう、おつかれさま」
「ん、ああ。ありがとうバーンシェル。鍛冶場の方は今日はいいのか?」
「いいんだよ。趣味で金属弄ってるだけだからな。欲しいもんもないだろ?」
確かにない。食事を用意しているのはフェルフェトゥだし、食材もフェルフェトゥが今のところ町で買ってきている。
折角畑も作っているのだから、やがてはその辺りも自給自足といきたいのだが……まだ先の話だ。
「これはアレだろ? 男女別に分けるやつ」
「ああ、今後村になっていく予定なんだしな。早めの方がいいだろ?」
「まあな……こんな僻地に好んで住みたがる人間がいるとも思えねえけど」
ぼそっと付け加えるように呟いたバーンシェルに雄太が「ん?」と聞き返すが、バーンシェルは「なんでもねえよ」と返す。
「で? まだ未完成みたいだけど、いつ完成すんだ」
「そうだなあ……この後脱衣所の天井用の石を切り出して、壁積んで……最終的には温泉の周りを囲む石壁を積んで……それで完成かな?」
「まだ2日くらいはかかりそうだな」
「かもなあ。中々手間がかかるよ。筋トレマニアのシャベルがなかったら、もっとかかってただろうな」
雄太の背負っている筋トレマニアのシャベルを見て、バーンシェルはフンと鼻を鳴らす。
神器・筋トレマニアのシャベル。
疲れを認識させず、疲れているという概念すらも忘れさせる道具だが……その能力は、ハッキリ言ってかなり上位のものだ。
これがシャベルであるから然程凄いとも思えないが、たとえばこれが剣や槍であればどうか。
疲れる事無く倒れるまで最高の全力を出し続けられる武器など、戦士であれば誰もが欲しがるだろう。
腕の立つ戦士の死因に疲れによるミスが多い事を考えれば当然の事だが……そんなものをフェルフェトゥは雄太に与えている。
フェルフェトゥが如何に雄太に入れ込んでいるかという証だが、流石にこれを超えるものとなるとバーンシェルも中々用意は出来ない。
「……この後はどうする、の?」
「おい入ってくるんじゃねえよベルフラット。今アタシが話してんだろが」
「どうでもいい、わ」
「ああ?」
「まあまあ」
睨み合うバーンシェルとベルフラットの間に入ると、雄太はベルフラットへと向き直る。
「とりあえず、山で新しい石を切り出してくるよ。脱衣所の屋根作らないといけないしな」
「私は、一緒でいいのに……」
「そういうわけにもいかないだろ」
笑いながら、雄太は「やばかった……」と内心で汗を流す。
脱衣所を作っていなければ、一緒に入ることになりかねなかった。
時間をずらすと言っても、聞いてくれるかは分からないし下手に言い包めれば後々自分の首を絞めるような事態になりそうでもある。
「とりあえず留守番よろしくな?」
「……ユータが、そう言うなら」
そんなベルフラットの返事に雄太はほっとするが、続くバーンシェルの言葉に雄太はうげっと唸る。
「あー、そうだ。アタシも今回はついて行くぜ」
「うげっ……なんで?」
「お前……うげっ、たあなんだコラ。アタシがついていったら不都合でもあんのか」
胸倉をつかむ勢いで迫ってくるバーンシェルに雄太は顔を背けながらも否定する。
「い、いやいや。そういうわけじゃないけどさ。ついてきても面白い物なんかないぞ?」
「馬鹿か。アタシは山に鉱石探しに行くんだよ。お前の石切り場にゃ微塵の興味もねえ」
「あー……そうか。鍛冶場の」
「おう。未発見の金属でもありゃ面白いからな。捜索の範囲を広げはするが、まずは近場からってわけだ」
つまり山に着いたら解散ということだろう。
雄太が頷くと、バーンシェルも満足したように頷き応える。
「そう。じゃあ今日も帰りはいつも通りね」
「そうなる、かな」
いつも通り。気絶するまで石を切っていると宣言する雄太だが、もはや本当に「いつも通り」だ。
「そ。行ってらっしゃい」
「ああ。じゃあバーンシェルも準備いいか?」
いつの間に用意していたのか水の詰まった水筒をフェルフェトゥから受け取ると、バーンシェルは頷く。
「ま、適当にブラブラ行くか」
「そうだな」
バーンシェルに雄太はそう返し、歩き出す。その後をバーンシェルは追う……その前に、チラリとフェルフェトゥ達へと振り返る。
それにフェルフェトゥとベルフラットが頷いたのを確認すると、何でもないかのようにバーンシェルは雄太達の後を追っていく。
「……で、貴女はどう考えてるの?」
「分からないわ。近くにはいると思うけど」
「私も同じよ。あの男、ユータの事にはとっくに気付いてたでしょうに……今更何かしら」
そんなフェルフェトゥの言葉が、吹く風に乗り何処かへと消えていく。
僅かに髪を揺らしたその風を……フェルフェトゥは、忌々しげに振り払うような動きをしてみせた。
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