第45話:男湯、女湯3

 どっさりと積み上げた石を運ぶのは、それなりに重労働だ。

 運ぶ為の道具があるわけでもないから、持てる分だけを持って運ぶしかない。


「何か作るべきだったなあ……なんていうんだっけアレ。リヤカーだったか……?」

「リヤカーってなんですか?」

「車輪のついてる箱みたいなやつだよ。簡単に物を運べるんだ」

「へえー」


 セージュは魔法の力か何かでフヨフヨと石を浮かせているが、それにも重量制限があるのだろう。

 雄太が運んでいる量と大差はない。


「セージュのソレが俺にも出来れば……ああ、いや待てよ。身体鍛えるんだったら魔法使ったらダメなのか?」

「身体鍛えるって。ユータについてるスキル関連の話ですか?」

「んー? あ、それも説明してなかったんだっけ?」

「されてないです」


 不満そうな顔をするセージュに、雄太は「なんて説明したもんかなあ……」と言いながらも歩みを止めない。


「こっちの世界に来る時に時空の神……バーなんとかってのにやられたらしい」

「バーテクスですか。あいつ高慢だから嫌いです」

「知ってるのか?」


 雄太は会ったこともないのだが、セージュは会ったことがあるのだろうか。


「知ってるというか、会ったことあるですよ。随分昔の勇者とかいう奴に力を貸せとか言ってたから、死ねと言ったら二度と来なくなったです」

「うわお……」


 余程嫌いなんだな、と雄太は苦笑する。

 そういえば精霊は神を嫌いなんだったか……と思い出しながらも、雄太はそういえばと気付く。


「そういえば神には有名で分かりやすい権能の神がいるって聞いたけど」

「いるですね」

「俺の世界のファンタジー……あー、伝説とかだと四大精霊っつーのかな。火とか水とかの分かりやすいもの司った精霊が居たりして、そういうのが勇者に加護与えてたりしたけど。こっちだと違うんだな」


 雄太がそう聞くと、セージュはあからさまに嫌そうな顔をする。


「神の加護受けた奴とか死ねって感じです」

「その理屈だと俺も死ぬんだが……」

「ユータは別です。いつか邪神から救ってあげるです」

「仲良くしてくれよ……」


 表面上は仲良くするですよーと答えるセージュに、道は遠そうだと雄太は肩を落とす。


「まあ、いいか。こういうのは人に言われてどうにかするもんでもないしな……」 


 何か致命的な事でも起こらない以上は、雄太が介入し過ぎても良い事にはならない。

 とりあえず放置しておこうと思いながら、雄太は石を運ぶ。

 流石に一人で運ぶよりは二人で運ぶ方が効率が良く、運んだ石を椅子代わりに座っていたフェルフェトゥの元へと次々重ねていく。


「大分運んだな……」

「ですね。そろそろ作るです?」

「んー……そうだな。とりあえず組み立てていって、足りなくなったらまた運ぶか」


 まず作り切るだけの石が足りるかどうかが問題だが、温泉を仕切る壁を作る分くらいは充分にあるだろう。

 雄太は温泉の横に石を並べ始め、それを省エネモードに戻ったセージュが不思議そうに眺める。


「何やってるですか?」

「ん? こうして並べると、長さを測る手間が省けるだろ?」


 そもそも測る道具がないからこうするしかない。木の棒で代用するというような話を聞いたこともあるが、まさか神樹エルウッドや世界樹の枝を折るわけにもいかない。


「大体この辺りで壁を作るように積めばいいんだな……となると、こう……」

「ふむふむ」


 分かっているのか分かっていないのか微妙な顔で頷くセージュをそのままに、雄太は運ぶ手間を考えてブロック分けし線を地面に引いていく。

 こうしておけば、後々間違えて接合材をつけてしまうこともない。

 セージュと協力して接合材の壺を運んで来たら、早速作業開始である。


「よ……っと」


 すでに手慣れたもので、石に接合材をつけては繋いでいく。

 神殿……もとい家やバーンシェルの鍛冶場を作っただけあって、その作業はかなり手慣れている。


「かなり手慣れてきたわね」

「だな。流石に建物2つも作れば……ってやつなのかもな」

「石切りの方はあまり上達してないみたいだけどね?」

「うぐっ」


 フェルフェトゥのからかいにやりこめられながらも、雄太は石を積んでいく。

 まずはお湯から出る程度だから、然程時間はかからない。

 一番下を安定性のある石で作れば、単体でも「とりあえず立つ」程度の壁……の足元部分が出来上がりである。

 この後、これを繋げた後に両端を作らなければ倒れてしまうだろう。


「……そういえばユータ。ちょっと疑問があるですけど」

「ん?」


 悩むように首を傾げるセージュに、雄太は作業の手を止めて振り向く。


「これ繋げて、後から石を上に積んでくですよね?」

「ああ」

「ユータの手が届くうちはいいですけど……最終的に何処まで積むですか?」

「……」


 言われて、考えてみる。

 家を造る時には壁に登りながら階段状に積んだが、あれは最初に床を積んでそこにフェルフェトゥの接合材でしっかり固定したから出来た技だ。

 だが今回はそうではない。下手をすれば、壁ごと横に倒れかねない。

 勿論最終的には寄り掛かった程度では倒れないように脱衣所の壁と固定するつもりだが……。


「……」

「……」


 雄太はセージュと顔を見合せ……浮いているセージュを見て、ハッとしたような顔になる。


「セージュ。もしかして俺を浮かせたりとか」

「出来るですけど……ひょっとして何も考えてなかったですか?」

「……そんなことない」


 言いながら顔をそむけた先では……全てを理解している顔で、フェルフェトゥがニヤニヤと笑っていた。

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