第44話:男湯、女湯2
「なら私も手伝うですよ!」
「え……セージュが?」
言いながら、雄太は省エネモードのセージュを見る。
肩乗りサイズのセージュでは手伝おうにもどうしようもない気がするのだが……魔法の力でどうにかするのだろうか。
そんな事を考えていると、セージュの姿が光に包まれ……次の瞬間には、世界樹の森で最初に会った時の大人の女性なセージュの姿がそこにあった。
「これならお手伝いできますよ!」
「あー……そっか。そっちが本当の姿なんだっけ」
20歳前後の女性。それがセージュの……世界樹の精霊の本当の姿だったと雄太は思い出す。
「なんつーか、ミニキャラでしか許されない性格とかあるよな……」
「何の話ですか?」
「いや、別に」
セージュとフェルフェトゥの性格を取り換えた方がいいんじゃないか、とかそんな事は言わない。
言えばセージュだけでなくフェルフェトゥまで敵に回すし、いつの間にか後ろに回られてそうだ。
「……何か失礼な事を思われてる気がするわね」
「うおおおおっ!?」
「ひえっ!?」
背後に現れたフェルフェトゥに雄太が叫び飛び上がり、そんな雄太を見たセージュが驚き後退る。
「フェ、フェフェフェ、フェルフェトゥ! 突然背後に来るなよ! 心臓に悪いだろ!」
「なによ、失礼ね。さっきから近づいてたわよ。貴方が気付かなかっただけよ」
「え? そうなのか?」
「そうですよ?」
雄太がセージュに聞くと、セージュは「気付いてなかったんですか?」と首を傾げる。
「マジかー……」
達人の道は遠そうだ、と落ち込む雄太の服を、セージュがくいっと引っ張る。
「ちなみに気付いてないかもですけど、家の陰から重たそうな邪神も見てるですよ」
「えっ」
言われて探してみると、確かに家の陰からベルフラットの姿が見える。
何やらじっとりとした視線を向けられているが。気付いてしまうと物凄く怖い。
放置していると更に怖い事になりそうだ……と危機感を抱いた雄太はベルフラットを呼ぶべく声を張り上げる。
「おーい、ベルフラット!」
「何かしら」
「うわああああ!?」
地面を滑るように一瞬で距離を詰めてきたベルフラットに、雄太は思わず恐怖の叫び声をあげる。
テレビから出てくる類の悪霊だってゆっくり距離を詰めてくるのに、一瞬で間近に来られると物凄く怖い。
「な、なんだ今の! 縮地か!?」
「縮地って、何かしら?」
「今の距離詰めた技だよ!」
雄太の叫びに、ベルフラットは「ああ……」と納得したように頷く。
「ユータも慣れれば出来るわ?」
「ええ……いや、一体どういう理屈でああなったんだよ……」
「地面に魔力を探して、滑るの。この土地は私の力も染みてきているから、ユータも出来やすいはず、よ?」
フェルフェトゥを間に挟むようにして移動していた雄太は「そうなのか?」とフェルフェトゥに問いかけるが……呆れたような顔をしていたフェルフェトゥからは「そうよ?」と答えが返ってくる。
「でも、あまりお勧めはしないわよ。長い距離を移動できるものでもないし、魔力の消費も激しいわ。滑るとか言ってるけど、吹っ飛んでるのと同じだもの。ユータだって、翼も無しに空を飛びたくはないでしょう?」
つまりカタパルトみたいなものか、と雄太は納得する。
雄太が近距離で居合いでも仕掛けるサムライなら役に立つのかもしれないが、そんなものになる予定もない。
「なるほどなあ……」
「で、何の用かしら。呼んでくれて嬉しい……わ」
「え?」
正直、見られていても怖いから呼んだだけなのだが……そう言うのもアレなので、雄太は風呂の事を説明する事にする。
「いや、今から男湯と女湯を分ける工事するからさ。今日はしばらく此処にいるって伝えようと思って」
「……そうなの? 私、ユータと一緒に入りたいわ……」
「それはマズいだろ……」
今日工事を思い立って良かった、と雄太は胸をなでおろす。
ベルフラットとのラッキーなんとやらを期待する程、雄太はベルフラットに夢を持っていない。
崖っぷちだと分かっていて突っ込むほど、アラサーは攻勢に出れないのだ。
「まあ、とにかくそういうわけだから。突然呼んで悪かったな」
主に雄太の心臓に悪かったが、そんな事は言わない。
「気にしてないわ……手伝う?」
「いや、いいよ。俺の修行でもあるしな」
とっさの言い訳にしては中々いいものだったと雄太は自画自賛する。
ベルフラットに手伝って貰うのは悪いわけではないのだが、嫌な予感もするのだ。
ラッキーなんとかをベルフラット相手にうっかり起こしでもすれば、奈落の底に落ちそうな気もする。
「そう?」
「そうそう。それに畑のこともあるだろ? ベルフラットにはそっちを任せたいんだよ」
任せたい、と言うとベルフラットの顔は喜びの色で覆われる。
「そう。なら、任された、わ」
「ああ、頼りにしてるよ」
「ええ。期待には応える……わ?」
嬉しそうに遠ざかっていくベルフラットを見て人知れず雄太が胸をなでおろしていると、壁に使っていたフェルフェトゥがニヤニヤと見上げているのに気づく。
「ようやく理解したってとこかしら?」
「いや、なんていうか……何もしてないはずなのに好感度が上がってる気がしてさ。なんでだろうな……」
「何もしてないから、って言っても理解できないでしょうけどね。まあ、あの対応で正解よ?」
そんな事を言うフェルフェトゥに「そっか……」と言うと、雄太はセージュに「ここまで石運ぶぞ」と声をかける。
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