第43話:男湯、女湯

 石垣。あるいは柵。村の境界線を示すものであるが、高く積めば防護の役にもたつものである。

 基本的には「此処から先は村である」と示すものなのだが、盗賊などの存在が石垣を高くして壁へと進化させる結果となった……と雄太は勝手に解釈している。たぶん間違ってないはずだ。

 

 さて、そんなものを作る為に持ってきた石ではあるが……今雄太が作ろうとしているのは温泉に入る時に脱いだものを置く場所……つまり脱衣所だ。

 本当は洗い場も作りたかったのだが、聖水で流せば汚れが落ちてしまう現状では作る意味が見いだせない上に排水を考えると下水を整備しなければならないのであきらめている。


「……つくづく現代文明って偉大だったんだなあ……」


 確かローマでも上下水道が完備されていたというから、時代を考えるとローマの技術力は何処かチートじみていたのかもしれないが……それはさておこう。

 ローマからしてみれば、邪神パワーで色々解決している雄太達の方がチートだろう。

 ともかく、脱衣所である。

 

「やっぱ今後を考えると男女別で……温泉も男湯と女湯で分けた方がいいだろうなあ」


 幸いにも今のところフェルフェトゥとしか混浴していない……いや、それも相当問題なのだが、バーンシェルやベルフラットに同じことをされたら流石の雄太も逃げ出したくなる。

 逃がしてくれるかはさておいて、だ。そして今までは雄太が気絶してたり出かけてたり朝風呂してたりでタイミングが外れていただけであって、今夜どうなるかは知れたものではない。


 雄太は極めて健全な成人男性のつもりであって、女性と……あくまで見た目は女性だ、中身が邪神であってもだ……ともかく女性と混浴して何も感じない程不能ではないし、それを知られて恥ずかしいと思わない程プライドを捨ててもいない。

 

 しかし男女別に分けるとなると、どう作ればいいのだろうか?

 昔行った事のある露天風呂を思い出してみるが、あれは確か別々の浴槽であった気がする。

 

「いや、待てよ……全部が全部そうじゃないはずだ。構造上、1つの温泉を二分割してるとこだってあるはずだ」


 そういう場合にどうするのか。

 単純に底にまで石を積んで2つに割る?

 違うはずだ。底から出入り出来ないようにはしても、ある程度お湯が循環できるようにしているはずだ。

 となると、柵のような構造と考えるのが正しいだろう。

 恐らくは二重に柵を作り緩衝空間のようなものを設ける事で、覗き対策なども完璧に行っているだろう。

 ……まあ、この温泉はそこまで大きくないので柵は1つでいいかもしれないが……。

 そもそも邪神ガールズを覗くような男にその後の命があるとも思えない。

 そして雄太は覗かない。覗いて命が無事であったとしても、深淵とかに引きずり込まれそうだ。

 主にベルフラットとかベルフラットとか、ベルフラットとかにだ。


「しかし、そうなると……ある程度柵を作ってから沈めるのがいいだろうなあ」


 お湯の中で接合材が固まるとも思えないし、そもそも塗る事すら出来ない。

 川に橋をかけるのと恐らく同じで、最初に柵の柱を作って置かなければどうしようもないだろう。

 さらに問題としては、作った柵の安定性の問題がある。

 穴を掘って埋めてもいいのだが、どう掘るか。

 温泉の中に掘ったとして、余程深く掘らない限りは意味がないだろう。


「セージュはどう思う?」

「ほへ?」


 ふらふらと飛んできたセージュに雄太がそう問いかけてみると、セージュは雄太が地面に描いている絵の方へと近づいてくる。


「なんですかこれ。橋ですか?」

「いや、この温泉の区切り。男湯と女湯を分けようと思って」

「ふむふむ」


 セージュは真剣に絵を見ていたが、やがて微妙な顔で雄太へと向き直る。


「……よく分かんないですけど、何を悩んでるですか?」

「あー……えーとだな。柵をどう固定しようかと思って」

「埋めればいいんじゃないですか?」

「どの部分を埋めるかって問題があるんだよ……」


 まだこの世界で体験したことは無いが、地震が起こった時に倒れたというのでは困る。

 安定性は非常に重要なのだ。


「うーん……でしたら、末広がりになるように両端を作って安定させた方がいいんじゃないですか?」

「なるほどな。揺れても倒れないようになってれば確かに問題はないか……あ、待てよ。そもそも脱衣所を合体させればいけるんじゃないか……?」


 片側を脱衣所として箱物にしてしまえば、崩れることはあっても倒れる可能性は格段に減るだろう。

 まあ、そもそもフェルフェトゥ特製の接合材がどうにかなるような事態も考えにくいのだが。

 更に考えを進めれば、温泉自体を覆う壁も作ってしまえばいい。

 その全てを繋ぐことで、更に安定性の高いものになるだろう。


「お役に立てたですか?」

「ああ、ありがとう」


 そうして考えると必ずしも末広がりに両端を作る必要がない気もしてきたのだが、そこから発想を得たのは事実だ。

 雄太が素直にお礼を言うと、セージュは自慢げに胸を張る。


「私はユータのお役に立てる精霊ですよ!」

「そうだな。感謝してるよ」


 言いながらも、雄太は地面に絵を描いていく。

 そうなると、最初にお湯から出る程度までの大きさの柵を作って沈めるか……いや、それだと大きすぎるから、ある程度分割しながら繋げていくのがいいだろう。


「よし、決まった。早速作り始めるか!」

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