第38話:帰ってきたアラサークエスト2

 フェルフェトゥと雄太、そしてセージュの3人は荒野を進む。

 

「前回はテイルウェイに会ったけど……今回は中々会わないなあ」

「避けてるのかもしれないわね。私が居るから」

「嫌われてるんですか? 同じ邪神なのに」

「向こうが避けるのよ。あいつ、人づきあい悪いから」


 余計な事を言うセージュを指でピシピシと弾くフェルフェトゥ。

 そんな二人をそのままに、雄太は「うーん」と唸る。


「そういう風な性格にも見えなかったけどなあ」

「気紛れな猫みたいなものよ。こっちが相手をしようと思うと逃げるの」


 なるほど、そう言われてみるとテイルウェイは猫かもしれないと雄太は思う。

 しかしまあ、それ以上にフェルフェトゥも猫っぽいとは思うのだ。


「……何かしら、ユータ」

「ん? フェルフェトゥも猫っぽいよなあ……ってな。気まぐれで悪戯っぽくて、基本的に強気だろ?」

「……その言い様だと、テイルウェイは猫っぽくなくなるわね?」

「かもな。でもまあ、そういう捉えどころのなさが猫っぽさと言えなくもないけどな」


 犬よりは猫派な雄太は、頭の中に猫を思い浮かべながらそう答える。

 今のところ猫を飼うような余裕は無いが、いつかは飼ってもいいかもしれない。

 元々、猫はネズミ対策で人間と共存した生き物だと聞く。

 ネズミが出るくらいに村が発展して来たら、そういう機会にも恵まれるだろう。


「猫、ねえ」

「なんだよ。フェルフェトゥは犬派か?」

「なんで二択なのよ」

「そういうものだろ?」

「そうかしら……」


 なにか納得いかないような顔をするフェルフェトゥだが、実際こういう設問は「猫派か犬派か」だ。

 恐らくは2大ペットだからとかそういう理由だろう。


「まあ、今のところどっちも飼うつもりはないわよ?」

「そうだな。今回探しに行くのはニワトリだし」

「いえ、そうじゃなくて。もうペットはいるでしょう?」


 指差すフェルフェトゥのその指の先を辿っていくと、そこに居たのは後ろを向いて何かを探しているセージュの姿。


「何も居ないですよ?」

「ええ、そうね?」

「フッ、邪神は馬鹿ですねえ」


 ニヤニヤと悪い笑みを浮かべるフェルフェトゥに雄太は「やっぱりフェルフェトゥも精霊嫌いなんじゃないか……?」と考えながらも何も言わずにスルーする。

 省エネモードなセージュはペットというよりはマスコット枠な気もするが、アラサーの相棒マスコットとして適切かどうかは議論を呼ぶところだろう。


「しかしまあ、本当に何も居ないよなこの辺りは」

「生き物が暮らしにくい場所には、自然と獣も寄り付かないものよ。ましてや、もう少し歩けば世界樹の森があるのだから」


 そう、この先には世界樹の影響を受けて緑も実りも豊かな世界樹の森がある。

 色々な動物はそこで弱肉強食の宴を繰り広げているのだろうが……そうなると、雄太には一つの心配事がある。


「ニワトリって、どっちかというと捕食される側だけどなあ……本当に大丈夫なのか?」


 たとえ世界樹の影響で強くなっているとしても、他の生き物だって強くなっているのだ。

 ニワトリ以上に強くなった生物に捕食されて全滅していてもおかしくはない。 


「うーん……それは問題ないと思うですよ?」

「問題ないって……まさかコカトリスでしたってオチじゃないだろうな」

「コカトリスってなんですか?」

「身体がニワトリ、蛇の尻尾の化物」

「うえっ、気持ち悪いです」


 どうやら違うらしいと分かって雄太は安心する。

 しかしそうすると、まさか本当に普通のニワトリなのだろうか?

 いやいや、そんなわけがない。きっとニワトリも巨大化していたというオチに違いないと雄太は自分に言い聞かせる。


「ユータの表情がくるくる変わっていくです……」

「そういう年頃なのよ」


 失礼な事を言われているのに気づき、雄太はキリッとした顔を作り直す。

 とにかく、世界樹の森は少しずつ近づいてきているのだ。


「……ん? そういえば。世界樹の森はセージュの……世界樹の影響でああなってるんだよな?」

「そうですね」


 頷くセージュは、自慢げに指を振ってみせる。


「私の魔力は土地や植物に良い影響をもたらすです。だから、世界樹のある土地は自然と潤うのです!」

「ああ。でもそうなると、俺達の村の土が良くなってきてたのは……誰の影響なんだ? ベルフラットか?」


 土に関する事ならベルフラットな気がするが、水の事を考えるとフェルフェトゥな気もする。

 

「あれは私とベルフラットの両方の影響よ。私が水を整え、ベルフラットが土を整えてるの。そこの世界樹の精霊の影響で、もっと加速するでしょうね」

「なるほどな……となると、バーンシェルの影響だと何が良くなるんだ?」


 雄太のそんな質問に、フェルフェトゥは足を止めてニコリと笑う。


「バーンシェルにそういうのは期待しちゃダメよ?」

「お、おう」


 期待してはダメらしい。まあ、火神にそういう類の事を期待するのは間違っているのかもしれない。

 雄太は話題を変えようと世界樹の森の方角を見て……そういえばと思い出す。


「そういや、前回は森からでっかいドラゴンもどきが出てきたんだよなあ……テイルウェイは羽トカゲとか言ってたけど」

「あんなのは、あんまりいないですよ?」

「ならいいんだけどな」


 あんまりってことは少しはいるんだろうか。

 そんな事を考えながら、雄太達は世界樹の森へと到着していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る