第39話:帰ってきたアラサークエスト3

 世界樹の森。前回は足を踏み入れもしなかったその場所を見上げ、雄太は感嘆の息を吐く。


「相変わらずでっかいなあ……」

「そうね。ここまで育たれると手入れだけでも面倒そうだわ」

「その前に日当たりがなあ」

「ああ、確かにそうね。切り倒すのを視野に入れる段階だわ」

「なんて酷い事言うですか……」


 雄太とフェルフェトゥの会話にセージュが呆れたような声を出すが、冗談ではなく2人ともかなり本気で言っている。


「とにかくニワトリを探さなきゃだけど、何処にいるかセージュは分かるか?」

「勿論です。この森は私の家のようなものですから!」


 そう言うと、セージュは省エネモードのまま森の中へとフヨフヨと進んでいく。


「さあ、私についてきてください。案内しますよ!」

「不安ね……」

「不安なら来なくていいですよ邪神!」

「まあまあ」


 セージュを宥めながら雄太が森に入ると、その後をフェルフェトゥもついてくる。

 それを見てセージュはまだ不満そうではあったが……案内を優先するべく、再び前を向いて進んでいく。

 ガサガサと草を踏みながら森の中を歩き、雄太はふと気付く。


「そういえば、地面の草は別に巨大化してるってわけじゃないんだな」

「容量の問題だと思うですよ」

「容量?」


 振り向かないままに、セージュは「ですよ?」と頷く。


「全ての物には魔力を受け入れ可能な限界容量が定められてるです。生き物や樹木はその上限が高いですが、草の類はその容量が低い事が多いです。結果、小さいままで終わるのですね」

「ふーん……なんかこう、薬草とか魔力草とかありそうなイメージあったけど」


 雄太のイメージとしては草が魔力をたっぷり含んで特殊な……錬金術の材料になりそうな草に育ったりするイメージだったのだが、そういうことは無さそうだ。


「薬草とかは、そういう風に最初から生まれてるです。でもどっちにしろ、含む魔力には限界があるですよ」

「そもそも薬草が魔力を含んでも薬効に対して違いはないわよ? 魔力草っていうのは知らないけど……足元の草は全部魔力を含んでるんじゃないかしら」


 なるほど、魔力をたっぷり含んだ草に凄い薬効が……とかいうものはないらしい。

 錬金術無双とかも無さそうだな……と雄太が夢破れているうちにも、森の中をドンドンと進んでいく。

 セージュの動きには迷いはなく、もし見失ったら迷ってしまいそうでもある。

 何しろ、この森の中には道も無ければ標識もないのだ。


「でもまあ、意外と木と木の間は離れてるよな。歩きやすい」

「そうね」

「2人とも、アリが通るですよ!」


 木々が密集している森では木と木の間が狭いというのもよくあるイメージだが、この森ではそんなことはない。

 そのせいか、巨大生物達も先程から雄太達の隣をノシノシと進んでいく。

 今前方からやってくるのは巨大なアリで、大型犬くらいのサイズだ。

 このくらいであれば雄太的には「カッコイイ」の範疇に入るのだが、飼おうとは思わない。

 まあ、そもそもアリは確か軍隊式の集団生活を営む生き物だから一匹だけ飼おうとしたところで上手くはいかないだろうが。


「お、カブトムシ……」

「凶悪ですから近づいちゃダメですよ」


 木にとまっているカブトムシ……これはオートバイくらいのサイズだが、あれに乗れたらカッコよさそうだとも雄太は思う。凶悪ということは、乗せてはくれないのだろうが……。


「見て雄太、向こうにムカデがいるわよ」


 フェルフェトゥの指差す方向を見てみれば、巨大なサイズのムカデがウネウネと進んでいくのが見える。


「うげっ……」


 多足生物が基本的に苦手な雄太だが、ムカデはその極致のようなものだ。

 あそこまで大きいとゾワッとした気分になるのだが女性陣……セージュやフェルフェトゥはそうでもないらしい。


「中々立派に育ってるですね」

「ええ、強そうだわ」

「飼いたいとか言わないでくれよ……」


 流石に巨大ムカデと仲良くなれる自信は雄太にはない。


「それよりニワトリだよ。さっきから虫としか会ってないぞ」

「ああ、それならもうすぐですよ? ……っと。ん?」

「どうした?」


 ピタリと止まったセージュが周囲をくるくると見回すのを見て、雄太は疑問符を浮かべる。

 まさかまたドラゴンもどきが……と思うも、そういう感じの反応でもない。


「こっちに向かってきてるですね……」

「へ?」

「コケッ」


 突然横からニュッと突き出された巨大なニワトリの顔に、雄太は「うおっ」と叫んでのけ反る。

 それは、馬よりも一回り大きい程度のサイズのニワトリ……トサカがあるから雄鶏だろうか。


「コケケッ」

「うわっ!?」


 更に反対側から顔を出したのは巨大な……こっちは雌鶏だ。

 両側からコケッと騒がれると、実に煩い。


「セージュ! このニワトリ達、なんて言ってるんだ!?」

「ニワトリ語なんて分かるわけないじゃないですか」

「そりゃそうだけど!」


 コケッと騒ぐニワトリの……とりあえず雄鶏に触れてみると、嬉しそうに頬擦りしてくる。

 そうすると、雌鶏の方は雄太に直接頭を擦り付けてきてグイッと押されるような形になってしまう。


「な、なんだあ? よく分かんないけど……好かれてんのか?」

「魔力の波長が合うんじゃないかしら。たまにあることよ」


 カリスマってやつよ、とフェルフェトゥは楽しそうに言うが、ニワトリに好かれても雄太は全く嬉しくない。


「コケッ」

「コケケッ」

「……あー……よく分かんないけど。うちの村、来るか?」

「コケッ」


 承諾したんだか何なんだか分からない返事を返す雄鶏からキラキラ光る何かが雄太に流れ込んで、フェルフェトゥが「契約成立ってとこね」と呟く。


「そうなの……か?」

「このサイズだと、もう魔獣の域だもの。従魔契約が可能よ?」

「え」

「おめでとう、雄太。テイマーデビューね?」


 異世界テイマー月林雄太、巨大ニワトリと契約。


「……微妙じゃね?」

「そんなことないわよ。それよりほら、そっちの雌鶏とも契約なさいな」


 帰りの足が手に入って嬉しいわね、と言うフェルフェトゥに……雄太は何とも言えない顔で「そうだな」と返すのだった。

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