第36話:雄太、畜産に思いを馳せる
「飼う? 生き物をですか? どうして?」
「どうしてって……そうだなあ。鶏なら卵を貰ったり、牛なら牛乳を貰ったりだな」
食肉用に関しては、捌いたところでこの人数では食べきれない。
必要なら世界樹の森に行って狩るのでもいいだろう。
単純にそういう食事目的でなくても、馬を飼えば移動速度も上がるだろう。
いや、ファンタジー世界なのだから走竜なんてのだっているかもしれない。
「ニワトリ……居ないわけじゃないですけど」
そう言うと、セージュは「うーん」と首を傾げる。
「何の話かしら?」
「ん? 何か飼おうって話をな」
やってきたフェルフェトゥに雄太がそう答えると、フェルフェトゥは「ふーん」と返す。
「だとすると、餌になる作物が必要ね?」
「む、そういやそうだな……ニワトリの餌ってなんだろ。麦とか大豆とか?」
流石にジャガイモは食べないだろう。いや、ひょっとすると加工したりして食べるのかもしれないが。
「ニワトリ限定なの? ユータがそれでいいなら構わないけれど」
「いや、牛でもいいけどさ。あ、いや。牛だと確か凄い草食うよな……」
牛だけでなく、馬もかなりの量の草を食べたような気がする。となると、牛や馬はまだ避けた方が無難だろうか……などと雄太は考える。
そうなると乳製品に関しては延期となるが、致し方ないだろう。
「まあ、ニワトリを飼うとして……麦か大豆は欲しいな」
「麦ならある……わよ」
「うわっ!?」
「きゃあっ!?」
背後から声をかけてきたベルフラットに雄太とセージュは同時に飛び上がる。
「べ、べべべ……ベルフラット!?」
「いきなり出てこないでください、この邪神!」
「ひどいわ……」
バクバクと音を立てる心臓を押さえるように胸に手をあてながら、雄太はベルフラットへと振り返る。
「麦があるって……あの神樹みたいなやつか?」
「そうよ……麦なんてものは、今の姿になるまでに幾つかの種が淘汰されてきているわ……」
そういえば古代麦なんてものもあったな……などと雄太は思い出す。
まあ、古代麦は現代地球でも買えた気はするのだけれど。
「なら、麦畑はベルフラットに頼んでいいのか?」
「ええ、任せて……」
「ありがとう。助かる」
「ユータの為なら楽なもの、よ」
実際、麦があれば生活の様々なものが変わる。
パンも作れるしビールも……と、そこまで考えて雄太は「ん?」と呟く。
「そういや麦って大麦とか小麦とかあったよな……」
さらに細かく言えばライ麦だとか、もっと色々種類はあるのだが……そんな事まで雄太は知らない。
「確かパンに使うのは小麦で、ビールに使うのが大麦だっけか……?」
しかし大麦パンという単語も聞いたことがあるし、けれど小麦ビールなどというものは聞いたことがない。
となると、大麦の系統の方がいいのだろうか……と雄太は考える。
けれど、どちらにせよベルフラットの力で滅びた麦を作るのであれば大麦に近い種、という話になるのだろうか。
「えーと……大麦っぽいのをお願いできる、か?」
「分かった、わ」
頷く雄太の頬を、今度はセージュがぶにっと突く。
「話終わりました? 次は私の番ですよ!」
「セージュの番って……ニワトリのことだよな?」
「はい。世界樹の森に確か居たですよ、ニワトリ」
「世界樹の森に、かあ……」
あの森に居るとしたら随分と強いんだろうな……などと雄太は思う。
そんなもの持って帰ったり育てたりできるだろうか?
「いいんじゃない? こんな場所で育てようっていうんだもの。世界樹の森で生きてる種の方が育てやすそうだわ」
「そういうもんかな……いや、そういうもんかもな」
家畜が獣に襲われるというのはよくある話だし、ニワトリを飼うにしても弱いニワトリでは外敵に襲われてしまう可能性も確かにある。
強い種であれば……万が一暴れたところで、邪神が3人も居ればどうにかなりそうだ。
「よし、じゃあそのニワトリを捕まえに行くか」
「はい!」
「あ、今回は私も行くわよ」
そんなフェルフェトゥの言葉に、雄太とセージュは同時に「えっ」と声をあげる。
「なによ、不満?」
「不満ですもがー!」
「いや、不満ってわけじゃないけど……いいのか? 村離れて」
セージュを抱えて口を塞ぐ雄太にフェルフェトゥはクスクスと笑うと「いいのよ」と答える。
「別にわたしが居なければ滅ぶというわけでもなし。問題ないわ」
「私も……」
「貴方は麦畑作りでしょ、ベルフラット」
「ズルいわ……」
手を振ってベルフラットを追い払うと、フェルフェトゥは髪をかきあげる。
「貴方達2人に任せてもいいのだけど。世界樹の森には私も興味があるわ」
「邪神とか来なくていいのですけど……」
「これ以上精霊の類を連れ帰ってこられても困るのよ。ユータならやりかねないわ」
言われて雄太は「そんなことない」と言いかけ……しかし、現状を見て口を噤む。
邪神3人に精霊1人。世界樹の森みたいな場所に精霊が他にも居たら、うっかり連れ帰ってこないとは絶対に言えない。
「あー……そうか。フェルフェトゥも精霊嫌いなのか」
「ユータの役に立つなら構わないわ。でも別に精霊村を目指してるわけじゃないのよ」
今のところ邪神村だけど、それはいいのかな……とは。
流石の雄太も空気を読んで言うのはやめた。
沈黙は金とは名言である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます