第35話:歴史に学べ
バーンシェルの鍛冶場が完成して、これで村の施設は神殿……兼自宅と、バーンシェルの鍛冶場。
温泉と井戸、じゃがいも畑。ついでに神樹エルウッドと世界樹。
最初の何も無かった死の大地と比べれば、随分変わったものだと雄太は思う。
「……というか、土も変わったよな」
「そうなんですか?」
「ああ。最初はもっと乾いた土だったし」
肩の上を定位置にしようとしているセージュをそのままに、雄太は足元の土をつまむ。
乾ききっていた土は僅かに湿り気をもっており、耕せば良い畑になりそうな気がした。
もしかすると、これからは雑草などの問題も出てくるかもしれない。
早速煙を煙突から噴き出している鍛冶場では、色々と便利なものも出来るだろう。
石器時代からはこれでお別れだ。
少しずつ、変わってきている。縄文時代を飛び越えて弥生時代くらいには来たかもしれない……などと考えて。
「弥生時代……」
「ヤオイジダイ、ですか?」
「いや、そんなイケメン同士の恋愛事情みたいなものじゃなくてだな」
「何言ってるんですか?」
「……」
汚れてるのが自分だけだと思い知った雄太は黙り込みそうになるが、とにかく弥生時代だ。
考えてみると、太古の生活というものはスローライフの為に先人が歩んだ道のようなものなのだ。
あまりにも死の大地過ぎて真似できるものがなかったとはいえ、これからは違うだろう。
「弥生時代ってのはまあ……なんだ。俺の居た世界での昔の話っつーか……」
「俺の居た世界って……違う世界から来たみたいな事言うですね」
「あれ? 説明してなかったっけ?」
「何も聞いてないですけど。え、まさか」
じっと見つめてくるセージュに「そういえば説明してなかったか……つーかフェルフェトゥとテイルウェイにしか説明してねえよ……」と雄太は気付く。
「うんまあ、その辺の話は今度な?」
「やです。説明するです」
「勇者召喚に巻き込まれた。色々あって捨てられてフェルフェトゥに拾われた。おしまい」
「雑です!」
「いてて!」
頬をぎゅっと引っ張られた雄太はセージュを掴んで引き離すが、手の中でセージュはバタバタと暴れて不満を表明する。
「あとで皆纏めて説明するから、な!」
「絶対ですよ!」
なんとかセージュを丸め込んで、再び弥生時代へと思いをはせる。
「ともかく弥生時代ってのがあったんだよ。えーっと確か……」
縄文時代から弥生時代にかけては、現代にもつながる重要な転換期だったはずだ。
狩猟生活から農耕生活へ。邪馬台国もその辺りじゃなかっただろうか。
確か金属器も導入され始め、飾りの少ない土器が開発された頃だったはずだ。
「土器、か……今の食器は町のものだしなあ」
それで困っていないのは確かなのだが、自前でどうにか出来るならそうした方がいいのは確かだろう。
上手くいけば名産になるかもしれない。
……とはいえ、弥生土器も縄文土器も素焼きだったはずだ。
アレは正直手触りとしてはあまり良くないし、食器のつるっとした触感は確か釉薬とかいうものを使って出していたはずだ。
「んん……釉薬使うと土器じゃなくて陶磁器になるんだっけ……?」
その辺りはちょっと雄太の記憶はおぼろげだが、確かそうなると釉薬どころか材料や作成方法からして違ってきた気もする。
だが、どうせ作るなら土器ではなく陶磁器だろう。
となると参考にすべくは弥生時代や古墳時代を飛び越えて、奈良時代くらいまでいかないといけないのかもしれない。
しかしそうなってしまうと、逆に雄太に知識がない。
「……この辺りはバーンシェルに頼んでみるか……?」
ひょっとすると粘土とかの話だからベルフラットにも頼まなければいけないかもしれないが、その辺りは要相談だろう。
頭の中で食器の項目に保留をつけて、雄太は次のものを考え出す。
「んー……そういえば銅鏡とかも弥生時代だったような」
確かあれは銅を磨くか何かして出来たものだった気がするが、これもどっちにしろバーンシェル案件だ。
「んー……そもそも日本の歴史って稲作で大きく変化したとこあるし、芋作なこの村に適用しようったって難しいところがある……のか?」
「よく分かんないですけど、やりたいようにやればいいと思うですけど」
「って言ってもなあ」
すぐにでも必要なものがあれば話が進むのだろうが……と考えて、雄太はふと気付く。
「そういや服飾文化も時代の象徴だったな」
「服ですか。そういえばユータはフェルフェトゥの匂いのついた服着てるですね」
「お手製だからな……」
ちなみに元の世界の服は、フェルフェトゥに「臭いわ」と言われて燃やされてしまっている。
幾ら吊るしの安物とはいえ酷い事をすると思う。
「でもそれなら、フェルフェトゥに任せておけばいいと思うですけど」
「それもそうかもだけど、布作るってのも……あー……機織り機なんて作り方知らねえよ……」
その前に糸を作る紡績機の作り方だって知らない。弥生時代の人はどうやって貫頭衣の為の布や糸を作っていたのだろうか……などと雄太は遥かな古代に思いを馳せる。
「んー……保留だな。となると……酪農……畜産とか、か?」
しかしこの辺りに畜産に適した生き物がいるかどうかなんて分からない。
この辺りの生態系に詳しそうな相手とういえば……と雄太は考えて、肩の上の精霊をすぐに思い出した。
「そうだセージュ。飼うのに適した生き物とか……何か知らないか?」
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