第32話:加護と捧げものの関係

 バーンシェルの言葉に雄太は困ったような顔をした後、うーんと唸る。


「加護とかは……別にいらないかもなあ」

「あ?」


 加護は要らない。そう聞こえたような気がして、バーンシェルは首を傾げる。

 神の加護。それは普通の人間であれば誰もが欲しがるものだ。

 善神の加護は誰もが欲しがるだろうし、悪神の加護を欲しがる人間だっている。


「そりゃテメエ、あれか。アタシが邪神だからか」


 だが、邪神の加護はいらないという人間は多い。

 ただでさえ権能が良く分からないものが多い邪神。当然加護も分かりにくいものが多いし、貰えば善神や悪神からの加護がもらえなくなるという迷信もあった。

 雄太もその類かとバーンシェルは考えかけ……しかし、フェルフェトゥの神官をやっている時点でそんなわけはないと思い直す。


「……まさか、フェルフェトゥに義理立てしてんのか? いや、その割にゃベルフラットの加護の匂いもすんぞ」

「そうじゃなくてさ。なんていうのかな、あんまり加護とか貰っても持て余しそうっていうか……そもそもベルフラットの加護なんてあるのも初耳だし、一応フェルフェトゥに拾われてる身だしなあ」

「ほうほう。それで?」

「過ぎたる力は身を滅ぼすっつーし、そんな凄い加護なんて貰わなくても仲良くできると思うんだよな」


 雄太の言葉にバーンシェルは納得したように頷くと、そのまま無言で脛に蹴りを入れる。


「い……ってえ!?」

「グチグチくっだらねえ理由並べてんじゃねえよ。どれ一つとして「アタシの加護が要らない理由」じゃねーだろうが」

「は? いや、だから」


 雄太が何かを言う前に、バーンシェルは雄太の脛に連続で蹴りを入れていく。


「ちょ、やめ! マジでいてっ! ぐおっ!?」

「いいか? テメエはな、「モテすぎると良くないし他の女の子に悪いと思うんだよね。僕達、特に理由も縁もないけど知り合い以上友達未満として仲良くなれると思うんだよね」って言ってんだ。ナメてんのかテメエ」

「あだっ!?」


 一際強いローキックを入れると、バーンシェルは雄太を睨みつける。


「いいか? このバカ。加護ってのはな、そいつに目をかけてますよって証だ。ラブレターと勘違いでもしてんのか」

「そ、そういうわけじゃないけどさ。いってえ……流石争いごと担当」

「茶化してんじゃねえよ」


 バシンと叩かれ、雄太は再度確信する。

 フェルフェトゥがサドでベルフラットがストーカーなら、バーンシェルはチンピラだ。

 テイルウェイはあんなにまともだったのに、ひょっとすると女性邪神は皆性格が歪んでいるのだろうか。


「とにかく、だ。そんなくだらねえ理由で拒否されたとあっちゃ引き下がれねえ。むしろ、嫌でもアタシの加護を受けてもらうぞ」

「押し売りかよ……」

「おう、その通りだよ。アタシをその気にさせたお前が悪いな」


 バーンシェルは悪い笑顔になると、喧嘩をやめて2人を見ているベルフラットとセージュに向けて「見てんじゃねーよ」と煩そうに手を振る。


「……何やってる、の?」

「邪神に悩まされてるんですかセージ! 追い払いますか!」

「寄るんじゃねえっつったろ! 燃やすぞ!」


 手の中に火を出したバーンシェルを見て、先程喧嘩をしていたはずの2人は顔を寄せ合い何事かを囁き合う。


「泥を……」

「……で捕まえて……」

「お、やる気かコノヤロー」

「やめろって」


 3人の間に入り込むと、雄太は大きく溜息をつく。

 つまるところ、雄太がバーンシェルの加護を受けるというのは「友達になろう」程度の話であることは理解できた。

 なら、バーンシェルの欲しがるものを捧げるのが一番面倒がないだろう。


「で、バーンシェルは何が欲しいんだよ。言っとくけど俺、たいした事出来ないし持ってないぞ?」

「お、やる気になったのかよ。まあ、難しい事は言わねえよ。お前にも役に立つものだしな」


 バーンシェルはそう言うと、近くに積んである家の余りの石材を指差してみせる。


「丁度石も余ってんだろ。小屋を一つ作れ。部屋だの細かい事は考えねえでいい。ただし煙突は作っとけ」

「煙突……」


 そういえば最初の家には煙突つけるの忘れたな……と雄太は気付く。

 また寒くないからいいが、そうなってくるとキツいだろう。そういうのは後付けでも大丈夫なのだろうか?

 クーラーだのなんだのといった家電製品に慣れた雄太の頭には、煙突という発想は無かった。


「あんまり分かんないんだけど、煙突って要は穴だよな?」

「あ? まあな。細かいとこは指示してやるよ」

「助かる。ついでに俺の家にも煙突つけるからそっちも手伝ってくれ」

「……いや、いいけどよ。意外と図太いなお前」


 バーンシェルは呆れたように言いつつも、不機嫌そうではない。

 

「んじゃ、始めるか。確か接合材はたっぷり余ってたはずだし……」


 ゴキゴキと肩を鳴らすと、雄太は背中に括りつけた筋トレマニアのシャベルを確かめる。

 小屋だろうとなんだろうと家は家。

 かなりの仕事であるのに間違いはなく、そうなるとこれが無ければ始まらない。

 何しろコレがあれば、理由は何故か思い出せないが全力で動けるのだ。

 シャベルの効果により「疲れ」という概念を忘れ去った雄太は、そのまま倒れるまで動き続けるのだった。

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