第31話:ジャガイモ畑を作ろう

「えーと……ただいま、ベルフラット」

「おかえりなさい、ユータ。寂しかったわ」

「そんな可愛い性格してねえだろテメエはよ……」

「うるさいわ……」


 近づいてきたバーンシェルを睨むと、ベルフラットは雄太へと笑顔を向ける。


「その何か丸いのがたくさんついてる子を植えるのね?」

「ああ。ジャガイモ……って勝手に呼んでるけど」

「うん……強くていい子ね。精霊の魔力を感じるけど、そのおかげで世話もほとんど要らなさそうね」


 愛おしそうにジャガイモを見るベルフラットに、セージュは「あら」と声をあげる。


「てっきり、精霊の加護を受けた芋なんか嫌だって言うと思いましたが」

「私は、そんなに器が小さくはないわ……ユータが植えたいと望むものを嫌がったりなんて、しないもの」


 そう言うと、雄太に「しっかり持っててね」と伝え家の裏の土地の上で舞い始める。


「可愛い土達よ、乾きたる土達よ。腐れし泥のベルフラットが、貴方達に祝福を与えましょう。さあ、さあ。痩せたる貴方には肥沃なる力を与えましょう。ほら、ほら。乾きたる貴方にはたっぷりの水を与えましょう。遠慮はいらないわ、その程度で私が乾く事など有り得ないのだから。さあ、さあ。思う存分満たし、力を示しなさい。育む力を、いずれ輪廻へと還る命を生み出す力を!」


 その舞に、踊りに合わせるかのように乾いていた地面は潤い、ぐねぐねと畝が出来始める。

 それは間違いなく雄太も知っている「畑」の姿で……立派な畑が目の前で出来ていく光景に、思わず感嘆の声をあげる。


「木の時にも思ったけど、凄いな……シャベルでどうやって畑を耕したものかと思ってたんだけど」


 最悪、石を削りだしてなんとかクワを作るしかないかと思っていただけに、何とも有難い話だった。


「農作業の道具、お持ちじゃないんですか?」

「お持ちじゃないんだよ、これが」

「ふーん……」


 思案気な顔をするセージュをそのままに、雄太は畑が出来上がってく光景へと目を向ける。


「さあ、貴方達もおいでなさい! 一緒に宴を楽しみましょう?」


 ベルフラットが手を伸ばし雄太へ……いや、雄太の手の中のジャガイモへと声をかける。

 するとその瞬間、ジャガイモ達が雄太の手から飛び出してベルフラットの元へと飛んでいく。

 ベルフラットの魔力なのか、光を纏ったジャガイモ達はベルフラットの周囲を舞いながら小さく切り分けられ、畑の中に潜り込んでいく。


「さあ、さあ。土の布団を被ったのなら眠りましょう。命を芽吹かせる為、次に繋げる為。腐れし泥のベルフラットが、最高の環境を約束しましょう。さあ、さあ。いずれの育ちの為に眠りなさい。その目覚めの為にさあ、さあ!」


 ベルフラットから光が畑へと降り注ぎ、僅かな輝きを畑が放つ。

 それはベルフラットに対し応えたかのようで……何処となく幻想的な光景ですらあった。


「終わったわ、ユータ」


 どういう理屈か畑の上を足跡をつけずに歩いてくるベルフラットに「おつかれさま」と雄太は声をかけるが……まさか、自分が何もしないで畑が出来上がってしまうとは思っていなかった。

 そんな雄太の心境を知ってか知らずか、ベルフラットは雄太へと駆け寄って思いきり抱き着く。

 そのついでに、素早く指でセージュを思い切り弾き飛ばすのも忘れない。

 ゴバンッという凄まじい音を立てて吹っ飛んでいくセージュに雄太は思わず「うおっ!?」と叫び掴もうとするが、ベルフラットに抱き着かれている状況ではどうしようもない。


「ユータの為に、頑張った……わ」

「あ、ああ。ありがとう。嬉しいよ。何もしてないのがちょっと悪い気もするけど」

「気にする事ないわ。ただ、私と一緒の泥に」

「それはちょっと……あと、セージュが……」


 雄太に頬擦りするベルフラットを軽く引き剥がしていると、弾き飛ばされていたセージュが飛び戻ってきてベルフラットの頭に思い切り跳び蹴りを放つ。


「こ、この邪神! 私をあんなパワーで弾くとか、何考えてるんですか!」

「だって、邪魔なんだもの」

「じゃ、邪魔って……貴方一応悪神じゃなくて邪神でしょう!?」

「そうよ。善神でもないわ……」


 ぷいとそっぽを向くベルフラットにセージュは尚もぎゃあぎゃあと言い続けるが、ベルフラットは聞いている様子もない。


「あー……仲良くな……?」

「気にすんなよユータ。権能使って攻撃しねえ分だけ仲がいいさ」

「ええ……その基準はどうなんだよ……」


 権能まで使ったら殺し合いっていうんじゃないだろうかと雄太は思うのだが、どうにも邪神の基準は違うらしい。


「そんな事よりだな。俺とお前も仲良くするにあたって必要なもんがあると思うんだが」

「必要って……ああ、酒とかならないぞ?」


 確か酒を造るには麦なり米なりが必要なはずだが、どっちもないしあっても造り方を知らない。


「そんな難しいもんじゃねえよ。お前に俺の加護を与えるにゃ、タダってわけにはいかねえんだよ。あの二人にはやったんだろ?」

「あー……」

「一応お前は俺の救出という労働を捧げはしたが、もっとしっかりしたもんやるにゃあ……ちっとばかし、な?」

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