第30話:苗の正体
「あー……なんか、こっちに力を中継するのに楽だからって言われたんだけど。なあ?」
「はい、そうです! この地に私の力をより早く届け、ユータをより強くサポートする為に必要なんです」
えっへん、と胸を張るセージュを見て、バーンシェルはチッと舌打ちする。
「うぜえな。燃やそうぜ、それ」
「やれるもんならやってみなさい、この木っ端邪神」
「ああ?」
「ケンカするなって……なんでどっちもそんな喧嘩腰なんだよ」
雄太の呆れたようなセリフに、セージュとバーンシェルは「え?」という顔をする。
「なんだよ。知らねえのか?」
「知らないって……何の話だよ」
「精霊ってのは基本的に神が嫌いなんだよ。善だろうと悪だろうと邪だろうとな」
「……そうなのか?」
「そうですよ?」
バーンシェルの言葉をセージュに確かめてみれば、セージュは何を当たり前の事を、といった顔をする。
どうやらこの世界の常識らしいが……なるほど、フェルフェトゥがセージュを連れて帰ってきた事に良い顔をしなかったのは、そういう理由もあるのかもしれないと雄太は納得する。
「神ってのは権能持ってるせいで基本的に傲慢ですから。私達精霊を部下か何かだと勘違いしてるとこありますし」
「何言ってやがる。精霊だって「我こそ自然の支配者なり」って考えてんだろが。アタシからすりゃ、精霊も充分傲慢だぜ」
「はあ?」
「ああ?」
睨み合うセージュとバーンシェルを「やめろって……」と仲裁すると、雄太は我関せずといった様子でジャガイモを検分しているフェルフェトゥへと視線を向ける。
「フェルフェトゥもなんとか言ってくれよ……」
「やーよ。それよりユータ、この芋、早く植えましょうよ」
「なんだよ、気に入ったのか?」
雄太が冗談交じりにそう問えば、フェルフェトゥは楽しそうに微笑む。
「ええ、そうね。色々と使い道がありそうだもの。早めに増やしておきたいわ」
「ありそうって。ジャガイモは一般的じゃないのか?」
「人間の町では見たことないわね」
あっちで見るのは赤くて長いヤツとかよ、と言うフェルフェトゥに雄太はサツマイモを思い浮かべるが……まあ、異世界であればそういうこともあるだろう。
確か地球でも、ジャガイモは食用として広がるまでに結構な期間があったという話を聞いたことがある。
「あ、でも植えるって……まさか畑がもう出来てるのか?」
「いいえ。でもベルフラットはさっきからずっと待ってるわよ」
「えっ。早く言ってくれよ!」
慌てて雄太が走ろうとすると、雄太の肩に乗っていたセージュが雄太の耳を引っ張る。
「い、いたたた! なんだよセージュ!?」
「芋より私の苗が優先です!」
「優先ったって……ベルフラットに地面をどうにかして貰わないと」
「要らないです」
セージュはそう言うと、雄太の前に飛んできて胸を張る。
「私の分身でもある世界樹の苗はどんな土地でも豊かにします。邪神の力を借りる必要なんてないんです」
「へえ、便利なもんだなあ……っていっても世界樹は……デカくなるしなあ」
「なりませんよ」
あの世界樹の森の巨大な姿を想像していた雄太は、セージュの返事に疑問符を浮かべる。
「この苗は分身みたいなものと言ったでしょう? 私が全力で成長を制御します」
「あー……なるほど。てことは、神樹とかの側の方が」
「そいつとは違う場所でお願いします」
手でバツを作るセージュに「神樹もダメなのか……」と呟くと、世界樹の苗を持って辺りをウロウロする。
「えーと……そうだな。それなら家の反対側にするか」
神樹エルウッドと家を挟んで反対側ならセージュも文句を言わないだろうと持っていくと、セージュは満足そうに「此処でいいです」と頷き始める。
とはいえ、万が一将来的に大きくなって家が壊れたらたまらないのでそれなりの距離を離してはあるのだが。
「それじゃ、早速地面を掘って……と」
「早く、早く植えてください!」
「はいはい……」
前と比べると少し乾きが減ったようにも見える土に世界樹の苗の根を埋めると、苗を中心に僅かな範囲が光り出す。
「はい、これで大丈夫です!」
「そうなのか?」
「私の力で土が豊かになっていきますので問題ないです」
自慢げに言うセージュに雄太は「ベルフラットの力みたいなものか……と呟く。
「そのベルフラットっていうのもたぶん邪神ですよね?」
「ん? まあ」
「……あそこで見てるのがそうですか?」
「へ? うおっ!?」
言われて振り向いてみると、家の陰から覗いているベルフラットの姿がそこにあった。
「ひどいわ……私はずっと待ってるのに、新しい女達と……」
離れているはずなのに、しかもボソボソという呟き声なのにハッキリと耳に届くベルフラットの声に、セージュは「うわあ」と声をあげる。
「控えめに言って重そうです……なんであんなのを……?」
「えーと……なりゆき……?」
一体何処から見ていたのか知らないが、なんか怖い。
このじっとりした怖さに比べるとバーンシェルは分かりやすいなあ、でもテイルウェイは癒しだったなあ……と。
居なくなって分かるテイルウェイの有難さを噛み締めながら、雄太はベルフラットに軽く手を振りながら走り寄る。
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