第19話:ベルフラットの権能

雄太達の家の裏。丁度窓から見えるその場所に、ベルフラットに連れられて雄太達はやってくる。


「この辺り、かしら?」

「そうだな。此処なら世話もしやすいし……」


 今後の村……まあ、今は村なんて言えるものではないが、とにかく今後の事を考えれば家の裏に畑というのは常識的な選択肢だ。

 

「じゃ、此処に畑を作るとして……ユータは何が好き?」

「へ? 何って……」

「此処に何を植えるのかしら。それに最適な土にしてあげる」


 言われて、雄太は色々なものを思い浮かべる。

 何もない現状だと、やはり芋や麦だろうか。

 炭水化物は食の基本だし、色々加工も出来る。


 それとも、野菜? 身体の健康の為には最優先である気もする。

 いっそのこと果物……は、後回しでもいいだろう。

 その辺りは育てるにも時間がかかりすぎる。


「あ、いや。待てよ。何を育てるにしても種がないな……」

「サービスしてあげる」

「へ?」

「あたしから、ユータへのお返し。ユータはあたしに欲しいもの、くれたから。あたしからの返礼よ」


 と言われても雄太としては困る。助けたのは自分がそうしたかったからだし、自分で手に入れるという趣旨からしてみればいいのだろうか?

 そう考えてフェルフェトゥへと雄太が振り向けば、ニヤニヤしているのが見える。


「……お前、ひょっとしてこうなるの分かって……」

「こうなるかな、とは思ってたわ?」


 ここまで計算済みだったのだろうか。思わず口の端をヒクつかせるが、気を取り直して雄太は考える。


「なんでもできる、のか?」

「出来るわ。ただし、実現可能なものであるならば」


 可能な範囲を探ってみれば、ベルフラットからは実に頼りになる答えが返ってくる。

 しかしそうなると、逆に迷ってしまう。

 何でもできるのであれば、自分が一人では作れそうにないものがいいだろう。

 ひょっとすると、畑じゃなくて田んぼだって作れるかもしれない。


「ん、んん……」


 急に増えた選択肢に、雄太は頭を悩ませる。

 芋、は探せば手に入りそうだ。元々痩せた土地で育つ作物のはずだから、こういう場所では見つけやすいはずだ。

 野菜、は少し頼むにはもったいない気もしてくる。貴重ではあるが「なんでも」と言われて作るとなると少しばかり気乗りしない。


 だが、そうなると何を頼むべきか。

 そう考える雄太の思考に……ふと、何かが引っかかる。


「……あ」

「決まった?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど……一つ聞いていいか?」


 首を傾げつつも先を促すベルフラットに、雄太は思いついたそれを口にする。


「今回の件とは別にさ。俺が畑を耕してベルフラットに捧げたら、それって立派な畑になったりする?」

「するわ。歴史書に残る畑にしてあげる」


 即答だ。そう、雄太が考えたのは井戸の事だ。あれは雄太が掘り、フェルフェトゥに「捧げる」事で立派な井戸になった。

 ならば、畑でベルフラット相手に同じ事が出来ないかと考えたのだが……正解だったようだ。


「でも、どうして? 二つ欲しいの?」

「ああ、いや。なんかこう……折角なんだから畑じゃなくて、なんか凄い実のなる木とかもありかなあって」


 ファンタジーなんだから、そういうものもアリなんじゃないか……というのは、やはりフェルフェトゥの井戸からの連想だ。

 あの聖水の湧き出る井戸なんてものがあるんだから、神様の加護を受けた木の実なんてものもあるんじゃないか……とか。木も欲しいなあ、とか。そういう考えだったのだが……ベルフラットは、真面目に考えるようなそぶりを見せる。


「あ、いや。無理なら別に……」

「できる、わ。でもそうなると……何がいいのかしら?」


 意外な反応に雄太は逆にとまどってしまう。ダメ元だったのだが、そういうのもアリだったようだ。


「よくその可能性に気付いたわね、ユータ?」

「え? いや。知ってたんなら言ってくれよ……」

「それだとあの女、断ってくるかもしれないし」


 背中を叩いてくるフェルフェトゥに雄太が文句を言えば、そんな返しをしてくる。

 余程仲が悪いのかフェルフェトゥが嫌われているのかは分からないが……まあ、合わなさそうではある。


「そう、ね……ああ、いいのがある……わ」


 ベルフラットは何かを思いついたかのようにぱあっと笑顔を浮かべると、雄太へと近づいてくる。

 互いが密着するかのように近いその距離に雄太は思わず後退りそうになるが、それよりもベルフラットが近づく方が速い。


「ねえ、ユータ」

「な、なんすかね?」


 フェルフェトゥと比べると正反対の……大人の魅力的なものに満ちたベルフラットの接近に雄太が思わず挙動不審になるが、ベルフラットはそれに気付いてはいない。


「此処は、畑を造るの、よね?」

「えっと……まあ」

「なら、木は何処に植えようかしら。家の、横?」


 確かに、家の右も左にも今は何もない。

 温泉は少し離れた場所だし、木が植わっていたところで問題はない。


「そう、だな。じゃあそうしようか」

「分かった、わ」


 そう答えると、ベルフラットは家の右手へと歩いていく。

 その後を追うように雄太達がついて行くと、ベルフラットは地面を足で叩いて確かめ始める。


「……フェルフェトゥの力が少し混じってるけど、水を感じるわ……。なら、此処ね」


 そう呟くと、ベルフラットはその場で軽やかなステップを踏み始めた。

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