第18話:神様、肥沃な土地が欲しいです
翌日。目が覚めると、雄太の両隣ではフェルフェトゥとベルフラットが寝ていた。
すっかり痛みの消えた腰は動かしても何ともないが、これでは別の意味で動けない。
フェルフェトゥはただ横にいるだけだからいいが、ベルフラットは雄太にしっかりと絡みついている。
しかもフェルフェトゥと比べると出るところが出た……しかも美女だ。
中身がヤンデル系神様なベルフラットであるとはいえ、嬉しくないわけではない。
「ていうか……フェルフェトゥの方がフラットだよな……」
「何がかしら」
「ひえっ」
今起きたのか寝たふりをしていたのか。しっかりと目を開けたフェルフェトゥに腕をつままれ、雄太はそんな声をあげる。
「いや。ほら。性格的な意味の話だぞ?」
「そうかしら。身体的特徴の話に聞こえたのだけれども」
「そ、そんな事はないぞう」
そんな事はある。そんな事はあるが、言ったが最後抓られるのは目に見えている。
「いやあ、可愛い女の子に囲まれて嬉しいなあ。でもそろそろ起きなきゃ!」
「心にもない台詞を言うものじゃないわ。本心が透けてみえるわよ」
「いでえっ!?」
結局抓られた雄太は跳ね起きるが、その拍子に雄太に絡みついていたベルフラットがゴツンと音を立てて落ちる。
「むにゃ……ん、おはようユータ。腰は大丈夫?」
「あー、おはようベルフラット。ていうか、なんで隣で寝てたんだ?」
そう、そこが疑問だ。
フェルフェトゥが隣で寝ているのは慣れたが、ベルフラットが隣で寝ているのは解せない。
一応ベルフラットとて神様とはいえ女性のはずだし、会ったばかりの男の横で寝ていていいはずがない。
「なんで、って。ユータには、あたしをもっと好きになってもらわない……と。将来的にはフェルフェトゥを捨ててあたしに溺れたらいいと、思う」
「それだけ聞くと男としては嬉しい台詞のはずなんだけどな……」
その先に色々とヤバいイメージしか見えてこない。
フェルフェトゥとは違う意味で邪神っぽいな……と思いながら、雄太は身体の節々を伸ばす。
ゴキゴキと鳴る関節は、昨日動けなかったせいだろうか。
「あ、そういえば」
「何かしら。今日の朝ご飯なら麦粥よ?」
「そりゃ旨そうだ……って、そっちじゃなくて」
やはり起きてたんだな……と思いつつも、雄太はベルフラットを指差す。
「ベルフラットの権能で、畑とかどうにか出来ないのか?」
「最初からそのつもりよ? 私が拠点を手に入れたら、最初に突っかかってくるのはこの女だと思ってたし」
実際突っかかってきたのだからその予測は外れていないが、ベルフラットの舌打ちがよく響く。
「あー、やっぱりどうにかなるんだな」
「そうよ。でもユータ、よくその可能性に気付いたわね?」
「そりゃ、な」
ぎっくり腰で動けない間、暇だったから考えていたのだ。
腐れし泥のベルフラット。
その名前が権能を表しているのなら。そして昨日のフェルフェトゥの説明と実際に見せた能力で考えるなら、ベルフラットの権能は乾いた土でも水分がたっぷりと含まれたものに変えてしまう。
そして、腐れた泥。ここから雄太が連想したのは腐葉土だ。
あれは確か葉が腐って出来た土だったと思うが、ある意味では「腐れた泥」とも言えるのではないだろうか。
生物だって、腐敗して土に還る。そしてそれは食物連鎖の理に従って植物を育てる。
そういうものをベルフラットが司っているのなら。
「豊穣の神様。そういうのもベルフラットの側面じゃないかなって思ったんだ」
「……当たりよ。流石ね、ユータ」
そう、確かにそれは「腐れし泥のベルフラット」の一側面だ。
しかし、誰もが目を背ける真実でもある。
それ故にベルフラットはその善神寄りの側面に目を向けられた事は無い。
それを、雄太は忌避することなく言い当てたのだ。
「……!」
「ぐうおっ!?」
何かが背後からタックルしてきた衝撃で、雄太は思わずそんな声をあげてしまう。
しかし、同時に背中に感じる柔らかい感触にそれが何であったのかを察知する。
「ど、どうしたんだベルフラット?」
「……嬉しい……」
「え?」
「嬉しい、ユータ……あたしをそう言ってくれたのは、ユータが初めて」
ベルフラットが過去どんなに土地を肥沃にしても、それを感謝した人間など居なかった。
別の神に感謝したり、ベルフラットがやったと知れば呪われたと嘆いたりする。
豊穣の神などと。そんな事を言われた経験など、長い神生の中で一度もなかった。
「……やっぱりあたし、ユータが欲しい」
「あー、いや。それは……」
「ユータとなら、同じ泥に溶けてもいい」
「勘弁してくれ」
どうして怖い方向にいくのか。それとも気付かずにヤンデレな方向に進めてしまったのか。
背中の感触が恐ろしくなってくる雄太だが、ベルフラットは嬉しそうだ。
「あたしの権能なら、確かに畑、作れるわ。ユータは畑、欲しいのよね?」
「そりゃ、まあ」
「いいわ。作ってあげる。世界最高の畑を、ユータにあげる。ユータがくれた嬉しい言葉に、あたしの権能で応えてあげる」
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