第11話:お家を作りたい

 朝。今日の朝食はホットケーキとキウイだ。

 たっぷりのハチミツをかけたホットケーキは冷めるのも早いが、ふんわりとした生地に染み込んだ甘みがたまらない。

 だが、付け合わせに用意されたキウイは意外にもホットケーキの味を引き立てる。


 その大きさ故に飽きてしまいがちなホットケーキだが、合間合間にキウイを口に入れる事で舌が見事にホットケーキを求めるものへと変わるのだ。

 その秘密は、キウイの種にあるだろう。たっぷり含まれた種をシャクシャクと楽しみつつ、軽い甘みを楽しみながら咀嚼する。

 そうすると、不思議な事に喉を通り抜けるか否かに感じる酸味が脳を覚醒させてくれる。

 これが、次に口に入れるホットケーキの味を強く感じさせてくれるのだ。


「……また妙な即興劇をやってる顔だわ」

「そんな事はない」


 頭の中を見透かされた雄太はサッと顔を背けるが、フェルフェトゥの視線に耐えかねて話題を変える事に挑戦する。


「で、今日は家を造る事に挑戦……てことでいいんだろ?」

「あら、やる気ね」

「まあな」


 雄太だって、家は欲しい。夜空を見上げながら眠るのもオツなものではあるが、万が一雨が降ればそんな事を言っている場合では無くなってしまう。

 家、住処、マイハウス。まさに男の夢でもある。

 しかも固定資産税がかからない。こんな素晴らしい事はない。


「ようやく、私の神官としての自覚が出てきたってところかしらね?」

「神官、なあ……家より先に神殿でも造った方がいいのか?」

「あら、いい考えじゃない。神官が神殿に住んでいても、何の違和感もないわ」


 余計な事を言ってしまったかもしれない。

 自分の口の軽さを嘆きながらも、雄太は「あー」と言いながら言葉を探す。


「でも、いいのか? 俺にそんな高尚なもんは作れないぞ?」

「問題ないわ。家を造る感覚でいいのよ? 神殿とは神の家なのだから」

「そんなもん、かなあ……」


 もう少し神聖なものである気もするのだが、目の前でホットケーキをパクつく邪神の神殿であれば、そういうものでもいいのかもしれない。

 いや、だとしても。そもそも材料の問題がある。ある、のだが。


「やってみるか」


 最後の一口を食べ終わると水を飲み、雄太は立ち上がる。


「はい、頑張ってちょうだい。そんな貴方の為に、強い味方も用意してあげたわ?」

「味方?」

「接合材よ。貴方、考えてなかったでしょ?」


 そう言われ雄太がフェルフェトゥの指差す先を見ると、そこには大きな壺が置いてあるのが見える。


「あ、いや。何も考えてなかったわけじゃないんだぞ……?」

「へえ? じゃあどうするつもりだったのか、聞いてもいいかしら」

「えーっとだな。石に凹凸を作って嵌め込む方式にすれば、上手くいくかなあって」


 確か、古代の神殿の柱で使われていた方式だ。日本の昔の家も、釘を使わずに嵌め込むような方式で造られていたものもあると聞く。そんな感じの伝統あるやり方だ。


「いい考えだとは思うけど……一個一個にその加工を施すつもり?」

「ぐっ」


 確かに手間がかかりすぎる。とてもではないが、雄太一人で出来るものではない。


「それに、その方式って縦と横でキッチリ計算して凹凸を造らないと意味がないと思うし。何より、壊れた時の修理が物凄く大変よ?」

「ぐぐ……」

「でもいつか人が増えたら、その方式を試すといいわ。今日の所は、接合材を使いなさい?」

「……ああ」


 気落ちした様子の雄太の背中を、フェルフェトゥはポンと叩く。


「そう落ち込む事はないわ。とてもいい考えだったと思うわよ? 単純に人が足りないだけ。私も、ユータが毎日疲労で倒れればいいなんて思ってないのよ?」

「……そうだな」


 雄太は頷くと、自分の頬をパンと叩く。


「よし……やるぞ!」


 気合を入れ直し、雄太は神殿を造る場所を決める。

 やはり神殿というと、村の中心だろう。

 材料も足りないから小さめでいいとして、聖水の井戸とやらは近くにあったほうがいい。

 井戸の近くに行くと、そこから二歩、三歩と歩く。


「この辺りが入口でいいか」


 筋トレマニアのシャベルで軽く穴を掘ると、そこを起点にシャベルで線を引いていく。


「あら、なんだか面白そうな事してるわね」


 空中に浮かぶ食器を井戸からふわふわと球になって出てくる水の中に突っ込んで洗っているフェルフェトゥ……物凄くファンタジーな光景だが、神様のやる事だからと雄太は何も言わないが、それはともかく。

 覗き込んでくるフェルフェトゥに、雄太は「ああ」と答える。


「まずは壁からだからな。石を積む場所を決めてるんだ」

「ふうん?」


 ガリガリと線を引いて、壁の予定地を作っていく。

 神殿なのだから礼拝場所と、その奥の部屋でもあればいいだろう。

 悩んだ結果、正方形のような形になってしまったが……まあ、こんなものだろうと雄太は自分を納得させる。


「よし、じゃあ此処に石を並べていくか」


 線の形に沿うように、雄太は石を並べていく。

 これで決定というわけではないが、大体のイメージは掴めるようになる。


「うーん……」

「ちょっと狭くないかしら?」


 皿を洗い終わったらしいフェルフェトゥが、そこに顔を出してくる。


「そ、うか?」

「そうよ。たぶん、こっちの手前の部屋が居間だとして、奥が寝室かしら?」

「いや、前は礼拝場だ」

「あら」


 礼拝場、と聞いてフェルフェトゥはクスッと笑う。


「本当に神殿を作ってくれる気だったのね?」

「……そう言っただろ」


 自分の本気を疑われたようで雄太はムスッとしてしまうが、フェルフェトゥは楽しそうに笑う。


「そんなに気負わなくていいのよ。私と貴方の家を造るつもりでやりなさい。私の居る場所がそれすなわち、神殿なのだもの」


 そんな事を言われて、雄太は頭を掻く。

 妙なところで神様らしさを発揮するな、と。そんな事を思いながら。

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