第7話:お家がない!
「と、いうわけで講義はここまで。今日は家を造るわよ」
「は?」
「家よ、家。いきなり神殿を造れとは言わないけど、文化的な生活の基本は家よ」
「家っていっても……俺、別に大工じゃないぞ?」
確か戦後すぐ辺りにその辺の材料を使って組み立てたバラックの家が乱立したと習ったような記憶があるが、そんなものの作り方ですら雄太はよく知らない。
ましてや、まともな家を造れと言われたら出来るはずがない。
「知ってるわよ、そんなこと」
だが、フェルフェトゥは何を言ってるんだと言いたげな目で雄太を見てくる。
「でもね。誰だって最初は未経験なのよ。人類が最初からあらゆる技術を持って生まれてきたと夢見る年でもないでしょう?」
「そりゃそうだけど……ああいうのは何百年とか、そういう技術の積み重ねであって」
雄太の言葉に、フェルフェトゥは大袈裟に首を振ってみせる。
「……別に貴方が、いつまでも家無しでいいと言うんであれば、それでも構わないのだけれど」
「うっ」
「いい? 言い訳ばっかりで踏み出さない事に慣れると、ダメ人間で終わるわよ。「結果ダメだった」でも構わないから、まずは創意工夫! 動きなさい!」
腕をバシッと叩かれ、雄太はとりあえずと筋トレマニアのシャベルを掴む。
掴んで……「あれっ」と声をあげる。
「なんで手元にあるんだ!?」
今朝は持ってきた覚えがない。ないのに、何故手元にあるのか。
「神器だからに決まってるでしょ。くだらない事言ってないで……」
「分かった分かった! っていっても……木の家を造ろうにも木が生えてないしな……」
確か原始的な家は洞窟を利用したり藁の家だったりしたはずだが、洞窟はともかく藁の家は造り方が分からない。
「なに? 木の家だったら作り方が分かるの?」
「分かるって訳じゃないけど……釘で打てばなんとなく形になりそうだろ?」
「その釘はどうするのよ」
「そりゃあ、町で買って……」
「却下」
最後まで雄太が言い切る前に、フェルフェトゥは呆れたように息を吐く。
「釘が欲しければ、自分で作りなさい。先人達は誰もがそうしてきたのよ」
「え、ええ!? だって」
「だって、じゃないのよ。必要なものを町で買ってきて作るくらいなら、最初から大工連れてきた方が速いのよ」
全くその通りな言葉に、雄太は思わず「うっ」と後退る。
「いいかしら、雄太。この作業は「貴方が私に捧げる」儀式なのよ。他の人間に頼らずに手に入る範囲内で全てをどうにかなさい」
「……分かった」
しかしそうなると、木の家は却下だ。木もなく釘もない。
だが同じ理由で石の家もどんなものか。
上手く石が手に入ったとして、どう組めば家になるのだろう?
日本古来の木の家は確か梁構造とかいうもので出来ているのは知っている。
しかし海外の石の家はどうだったか。まさか、天井まで石で出来ているということはないはずだ。
いや、ひょっとすると石なのだろうか。
だが、そんなものをどう安定させればいいのか雄太には想像もつかない。
「ん? いや……待てよ」
そこで雄太は、いつだったか見た廃城の写真を思い出す。
確かああいうのは、壁が残って天井が抜けているようなものが多かったはずだ。
となると……壁で天井を支える構造、ということでいいのではないだろうか。
ならばまずは壁を作って、天井はそれから考えればいい。
「よし、石の家を造ろう!」
「石なら、あっちの山で手に入るわよ?」
言いながらフェルフェトゥが指差すのは、少し離れた場所にある山。
なるほど、確かに山であれば石がたくさん手に入るだろう。
「家に合う形に切り出すのは結構大変だと思うけど、頑張ってね?」
「う、ぐうっ」
「切るだけなら、貴方に与えた神器で出来るわよ」
流石に雄太にだって分かる。石で家を造ろうというのであれば、それなりに揃った四角形に石を整えなければならない。
しかし、やらねばならない。目の前でニヤニヤ笑うフェルフェトゥに、これ以上ダメ人間呼ばわりされるわけにはいかないのだ。
「や、やってやるさ! アラサーの底力、見せてやる! うおおおおお!」
叫びながら走っていく雄太を見送りながら、フェルフェトゥはひらひらと手を振る。
雄太の姿が山の中に消え、遠くから雄叫びが響くのを聞きながら……フェルフェトゥは口元を抑え「ぷふっ」と吹き出す。
「バカよねえ。他の人間に頼るなとは言ったけど。私に頼るなとは言ってないのに」
昨日フェルフェトゥが井戸の形を整えたのを覚えていれば、フェルフェトゥにそういう材料を用意できる力があるという事が想像できていたっていいはずだ。
まあ、生真面目な雄太の事だから「他の人間に頼るな」を「自分の力だけでどうにかしろ」と真面目に捉えてしまったのだろう。
神に捧げるものを、神から下賜されたもので造ってはいけないという決まりはない。
そもそもの理論でいえばあらゆるものは神からの授かりものなのだから、善神の理屈で邪神の神官になる雄太が動く必要はないのだ。
もっとずる賢く立ち回れば楽に生きられるだろうに、そういう才能に欠けているのだ。
「ま、いいわ。私の為に雄太が汗を流すその努力自体が、私を高めてくれるのだから」
石を切りだしてきても、それを組む為にどうすればいいかは、きっと考えていない。
それに気づいた辺りで、石の切り出しの報酬として接合材を与えてもいいだろう。
そんな事を考えながら、フェルフェトゥは雄太の帰りを待つ。
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