第6話:魔法チートしたい

「邪神と呼ばれるような……って、たくさん居るのか?」

「居るわよ。私みたいな人格者じゃなくてヤバいのもいるし。でなきゃ勇者なんか喚ばれないでしょ?」

「勇者……?」

「貴方と一緒に喚ばれてた連中よ。覚えてるでしょ?」


 フェルフェトゥに言われ、雄太は「あー」と頷く。

 そういえば、確かに同郷の学生達が居た。次会った時に分かるかは、ちょっと自信が無い。


「居たな、そんなの。でも、ロクに挨拶もしてないし」

「そういえばそうね。で、あの子達は勇者として喚ばれてるのよ。まあ、貴方の人生には関係ないから別にどうでもいいわね」

「そうなのか?」

「そうよ。ご立派な救世の旅なんてものはあっちに任せておきなさい」


 救世の旅。剣と魔法の世界を全力で楽しむようなものなのだろう。

 彼等はそういう能力であるようだし、そういうことも出来るのだろう。

 雄太はそうではなかったから捨てられたわけだが。


「なあ、俺も魔法で凄い事出来たりしないのか?」


 魔法。30代になっても変わらず憧れる響きだ。

 火水風土光闇。時空魔法なんてのも憧れる。

 使う機会がなくとも、そんなのをファンタジーな世界に来たからには使ってみたいと思うのだ。


「貴方には神器あげたでしょ」

「シャベルじゃん。しかもアレ、どっちかってーと呪いのアイテムじゃないか?」


 動けなくなる限界までその事実を認識できないシャベル。

 恐ろしいにも程がある。まるで社畜養成シャベルだ。リストラになった時にそういうのは卒業したはずなのだ。


「何言ってるのよ。貴方の呪いじみたスキルをどうにかするには最適なのよ?」

「呪いじみたスキルって……あのぎっくり腰がどうのっていう」

「そうよ。ギックリ腰と不健康。ハッキリ言って、有り得ないスキルだもの」


 ギックリ腰。一定確率で腰に「激痛」のバッドステータスを付与する常時発動スキル。

 不健康。自分の身体能力を低下させる常時発動スキル。また、低確率で「病気」が付与される。

 

 大体こんな感じだがフェルフェトゥからしてみれば、こんなスキルは有り得ない。


「いい? スキルっていうものはね。祝福なの。ゴミみたいなスキルはあるけど、それも含めてその生き物が多少なりとも幸福であれと授けられるものよ。その原則は絶対に変わらない」

「でも、俺のスキルはどう考えても幸福じゃないぞ?」

「だから問題なんじゃない」


 有り得ない事が起きている。その原因があるとしたら、勇者召喚だろう。


「……私の想像になるけど、勇者召喚に貴方が混ざったことで足し算と引き算が行われたのかもしれないわね」


 召喚者が欲しかったのは、自分達の望む勇者だ。

 その能力が高ければ高い程素晴らしいわけだが、そこに予定外のものが混ざった。

 それは当然召喚者の意思とは異なるものだが……その際に、なんらかの要因で勇者二人の能力を底上げし、雄太の能力を削る事で帳尻を合わせる作業が行われたとしたら。


「そういう事が出来るのは、召喚に力を貸した神ってことになるわね……たぶん時空の神バーテクスよね、あれ。くっだらない事に権能使うわね」

「え、俺のスキルがゴミなのって神様のせいってこと? 邪神じゃん。その神様」

「残念だけどバーテクスは善神ってことになってるのよね」


 まあ、そこは今更だからどうでもいいのだ。問題は、そこから先だ。


「とにかく、スキルとして貴方に与えられている以上は解呪でどうにか出来るものでもないわ。だってそれ、貴方の才能の一部になってるんだもの」

「え、ええー……」


 あまりにも酷すぎる。ぎっくり腰は一度なったらなりやすくなるとは聞いていたが、こんな約束されたぎっくり腰なんて要らないにも程がある。

 なにしろアレ、まともに動けないのだ。身じろぎするだけで激痛が走る「ぎっくり腰期間」は、本気で人生の意味を考えたくなってくる程だ。

 しかも「不健康」の方も酷い。あまりにも酷すぎる。


「でも、逆に言えばスキルという形になったからこそ出来る対策もあるわ。話を戻すけど、それが貴方に与えた神器よ」

「あの筋トレマニアのシャベルが、か……?」

「そうよ。私の見る限り、「不健康」は「健康」のスキルに変化させられる可能性があるわ」


 スキルの変化や進化自体は、珍しい現象ではない。

 その法則にしたがえば、「不健康」が逆の効果を持つ「健康」に変化する事は当たり前でもある。


「その為には、「不健康」では有り得ない状況を作る事が大事よ。身体を鍛えて、しっかり食べてしっかり寝る。その繰り返しで貴方に与えられた呪いを反転させる。そうすれば、不健康なんていうゴミスキルも素晴らしいスキルに変わるわ」

「おお……」


 それは素晴らしい情報だ。確かに雄太は運動などというものからは遠ざかって久しい。

 しかし筋トレマニアのシャベルを使えば「疲れたから休もう」などという考え自体が頭の中から消え去る。

 毎日全力で身体を鍛えるという環境が強制的に出来上がるのだ。チャレンジ精神が減衰して守りに入り始めるアラサーには嬉しい神器だといえる。


「じゃあ、ぎっくり腰も何かに変わるんだな!?」

「ん? んん……どうかしら。まあ、身体を鍛えて筋肉つければなんとかなる、かも?」


 ならないかもしれない。

 その事実をなんとなく察した雄太は、ほろりと涙が零れるのを感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る