8
キメゴンがひたすらに叫ぶ中、昭子はキメゴンの目と鼻の先に居た。
昭子は
あらゆる生物の弱点である眼球が潰れる。眼球に棒が無ければ瞼で塞いでいただろうが、塞げないので悲惨な映像がマイ眼に映し出された。
ぐちゃぐちゃだ。血だと思われる黒い液体だけが眼に存在しているかのようだ。
そこに昭子は足を運ぶ。お風呂にも入り込むように眼球跡地に沈んだ。
何してんだアイツ?
《目から脳を破壊しに行きます》
そんな酷い報告がナノマシン経由が昭子から伝えられた瞬間、キメゴンが跳ね上がる。
エビぞりにブリッジしているかのように、キメゴンは全身を伸ばす。腕、手、指、足、足指、首と、全身を伸ばして太陽の光を取り込もうとしているかのように。
その数秒後、キメゴンが倒れ、昭子が眼球跡地からのそっと湧き出た。
昭子が手を振る。なんとなく俺も振り返した。
《終わりました。こちらで散らばった荷物を纏めようと思いますので、そこで待ってて下さい》
「いや、俺も手伝うよ」
《助かりますが、荷物は殆ど地面に埋まってしまっているので翔ちゃんは無理だと思いま――》
爆音が俺の耳を潰した。
視界には光の柱が現れる。レーザーだ。
それは一本だけではない。四方、色んな場所から8本のレーザーが昭子周りに放たれた。
爆ぜ散る塩地面。溶ける死んだキメゴンの肉体。爆発した地面は空気を飛ばして嵐のように塩を飛ばしていく。
周りを見る。キメゴンが8体居た。
見た目は昭子が倒したキメゴンと同じ。まったく同じ姿と皮膚の模様をしている。
ある固体は空を飛んでおり、ある固体は地面の上に立って、ある固体は地面に埋まったままで。
どの固体も目から棒を伸ばしている。眼球が四つにみかんの様に裂けて、そこから長い長い棒を昭子へ向けていた。
視線を元に戻す。視界が白く染まっており、昭子がどうなっているのか分からない。
⋯⋯そうだ、ナノマシン経由で連絡を取れば良いじゃないか。
「無事か?!」
《大丈夫ですよー》
昭子の気の抜けた返答が、鼓膜周辺にあるナノマシンが振動させる。
「囲まれているのは知っているか?」
《⋯⋯どの程度居るか分かります? 私の目では塩嵐で遮断されてよく分からないんです》
「8体。さっきと同じドラゴンがモグラみたく地面から出てきたり、そのまま木みたいに立っていたり、空を飛んでたりしてるぞ」
《どうしましょうか⋯⋯?》
昭子が悩み始める。その間にもキメゴンらがジッと、塩煙を見つめている。棒の生えた眼球で見つめている。あの塩が晴れたら、またレーザービームを昭子へ向けて放つのだろう。
「昭子、さっきのレーザーを避けることは出来たのか?」
《完全には無理でした。ただ、四肢は片腕以外無事ですよ》
「ドラゴン複数体を相手にすることが出来るか?」
《難しいですね。まず近づくためにドラゴンレーザーを避けるのがめんどくさそうです。先ほどは一体だけでしたが複数体となると視覚認識が出来るか不安です》
「さっきの攻撃を避けられたのは?」
《避けていませんよ。ドラゴンの死体が軽減してくれました》
「なら、ドラゴンを盾に進むのは?」
《そのドラゴン死体ですが、もう半分以上溶けて無くなっています。持って行っても一発受けるのが限界でしょう》
どうしようもない。本当にどうしようもない状態で、思わずため息が出た。
《翔ちゃんはそこで隠れてください。あのドラゴンたちの狙いは私でしょう。翔ちゃんはそこで待機していてください》
「昭子はどうするんだ?」
《私は翔ちゃんとは逆の方向へ走ります。それであのドラゴンたちを誘導出来れば良いのですが》
「⋯⋯お前は隠れてやり過ごそうとは思わないのか?」
《それでもいいですが、多分あのドラゴンはレーザーを放って、この周辺を吹っ飛ばすでしょう。そうしたら私はやられてしまいます。なら、逃げるように走った方が、私は無事でしょうし、翔ちゃんの手助けがまだせきます》
「やられないのか?」
《大丈夫ですよ。だから――》
そう言って、昭子は一呼吸を入れて告げる。
《――翔ちゃんはその手を下ろしてください》
《緊急措置:肉体をロックしました》
「――なっ!」
一番近くに存在していたキメゴンに、
――ふざけんな! ロックを解除しろよ!
そう叫ぼうにも俺の口は動かない。必要最低限の生命活動に必要な呼吸以外が出来なくなっていた。
昭子が言葉を伝える。
《私の支援なんかしたら、ドラゴン達が翔ちゃんに気が付いてしまいます。だから、そこで寝ていてください》
《緊急措置:強制睡眠》
《睡眠から覚めたら、元の平原へ行ってください。荷物は埋まっていますが、ナノマシンを使えば肉体を十分活躍させることが出来るはずです。ドラゴンちゃんも埋まっていますが息はありましたし、大丈夫です》
急に瞼が重くなる。ふざけるな。
昭子は自分を犠牲に俺を生かすつもりらしいが、俺は嫌だった。1ッ月を少し超す程度の付き合いだが、昭子を失いたくなかった。
だが、俺よりも肉体を理解しているナノマシンには逆らえなかった。意識が薄らいでいく。
最後に、塩が爆発する音を聞いた。
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