あがd4g
目に刺さる
貫通したからには穴が発生する。そこから得体のしれない黒い液体――血だろうか――が湧き出ていた。
「やったぞ、昭子!」
『ええ、やりましたね。こちらの走りも何とか済みそうです』
下を、地面を見てみる。塩地面の崩壊は収まっていた。
「なら、このまま逃げ切れるのか?!」
『残念ながら、食料も、トラックも、そこに積んでいた予備の荷台も、あのドラゴンの周辺にあります。このまま元の平原まで逃げても時間も速度も足りません』
「くそったれ!」
俺は思わず叫んで、忌々しいキメゴンの方へ視線を向ける。
キメゴンは叫んでいた。なぎば͜͜͏̘̣͔͙͎͎ゃぎい̜ͪ̅̍̅͂͊ゃơ̟̤̖̗͖͇̍͋̀͆̓́͞͡ががうや͜͜͏̘̣͔͙͎͎̘̜̫̗͍͚͓͜͜͏̘̣͔͙͎͎ぇっ、と日本語で表すのが不可能に感じる叫び声。俺の頭脳を浸食してきそうな程に異常な声をあげている。
しかも、その声を上げる口も一つではなかった。顔じゅうから口が開き、そこから空気を震わせている。キモイ。
キメゴンはこちらを向いていなかった。ひたすらに叫び声、叫び声、叫び声。ついでに暴れてはいるが、とても塩嵐を発生させたとは思えないほどにゆっくりとだ。周辺の塩が若干舞い上がっているが、その程度だ。
「いま、ならやれるんじゃないか⋯⋯?」
俺はそう思わずにはいられなかった。
だって、キメゴンこっちを狙ってないんだぜ? しかも体内器官であれば柔らかいし、
なら倒して、散らばった食料を回収することが出来るんじゃないかって思えた。
だからそれを昭子に伝えた。
『⋯⋯危険ですが、それが生き残るには一番かもしれませんね』
「なら、やるか?」
『ええ。やります。翔ちゃんはここで待っててください。ここなら攻撃の余波も来ないと思いますが、念のために隠れてください』
「いや隠れるって言っても何処にだよ? 塩の砂漠だぞここ」
『潜ってください』
「え?」
昭子は足を振るうと、近場の塩が噴火して風に乗って何処かへ飛んでいく。噴火した場所は人間大ほどの穴に変貌した。
『ここに入っていてください。上から塩をかぶせることはしませんよ。もしもの時に逃げれないので』
「あ、うん」
やっぱこいつ強いよな。あのキメゴンよりは攻撃力は無いのかも知れないけど、俺より圧倒的にお強い。なら余裕だと思うな。
そう思って穴の中に潜り込んでいる間に、昭子はキメゴンへ向かっていた。
◇◆◇◆◇
あらから数分は立っているというのに、キメゴンはいまだに叫び声を上げていた。
ソイツに近づく昭子は、片腕しかなくなってしまった手をキメゴンに向けて
『『『『『『『『『《なんか火が出てくれお願いだ頼む、故郷に病気の妹がそこそこの威力で飛んでいる火を見たいって言っているんだ! 本当に頼む!!》』』』』』』』』』
カマキリと時に聞いたアンドロイドだから可能な多重詠唱。それは彼女の右腕に複数の
それはもう、気持ちの良いくらいにドズドスと刺さって空へ抜ける。眼球辺りはボロボロだ。
俺なんか何十発も打ったって言うのに、昭子は百発九十九中とも言えそうな精度で当てていっている。
多少外すのはキメゴンが暴れて動いているからだが、そうだとしても異常な精度だ。俺なんかキメゴン静止してあの命中度だからな。ちょっと悲しい。
『『『『『『『『『《なんか火が出てくれお願いだ頼む、故郷に病気の妹がそこそこの威力で飛んでいる火を見たいって言っているんだ! 本当に頼む!!》』』』』』』』』』
アンドロイドは息切れしない。呼吸を行いながら叫ぶことが可能だからだ。人間様にはそんなことが出来ないが、人間を模範しただけで中身は似ているところを探す方がめんどくさそうな奴だから可能なのだ。
右目、左目。交互に
「――あがd4g!」
キメゴンの異常な声が更に膨張した瞬間、ついに眼球棒が折れた。根元から棒は落ちて砂地面に刺さる。
その時点で昭子はキメゴンのほぼ真横にいた。
キメゴンはいまだに暴れまわっており、それによって尻尾が揺れる。
尻尾が暴れ、その範囲に昭子がいた。偶然の一撃を彼女は避ける。次は腕を避け、足を避け、どんどんとキメゴンへ近づいていく。
暴れる。転がる。尻尾と足と腕が地面を削る。昭子を襲う。
それらを昭子は避けていく。余裕が出来ると
昭子に余裕がない時は
⋯⋯ちなみに何で俺がそんなことを知っているかというと、
《――という事です》
「へーそうなのか」
ナノマシン経由で教えてくれていたからだ。これ無線機能あったんだね。初めてしったよ。
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