目
昭子の片腕が宙を舞い、回転しながら地面に落ちる。それを見た俺は叫ぶ。
「大丈夫か、昭子!」
『そう思いたいです!!』
返答は、必死で余裕が無い声色をしていた。
昭子が走る。俺を抱えて必死に。俺の視界はぐらぎゅらと振動する。
俺は視界が白くなった時の場所を思い出し、そこを見てみると――穴が開いていた。
その穴は人の肩幅ほどありそうで、そこに周辺の塩がサラサラと流れ込んでいる。そして急にその周辺の塩が崩れ始めた。それは土砂崩れのように、塩が液体のように、崩壊している。
地面の崩壊の範囲は徐々に広がっていき、俺と昭子の居るところまで及ぼうとしていた。昭子が必死に走り範囲外に逃れようとしている。その速さは塩の崩壊浸食スピードと同等だ。
その間に俺は、この惨状を引き起こしたと思われるキメゴンを見る。キメゴンは相変わらず俺達をじっと見ているが⋯⋯目が何だかおかしい。
キメゴンの眼球内には複数の色彩があって、まるで目が複数あるように思える感じだった。だが、今は違う。
目が裂けていた。四つに。ばってんの様に。みかんを割るように。キメゴンの眼球は四つに分かれて、そこから黒い棒のようなものが存在していた。
「なんだよあれ!」
俺は思わず叫ぶ。その叫びに昭子は答える。
『⋯⋯あの変な棒から、レーザービームのようなものを出して私たちを攻撃してきました』
「なんだよ、そりゃ! 目って視覚という物を認識する重要機関だぞ! なぜその重要な機能を潰して攻撃しているんだよアイツ!」
『分かりません。ですけど、あの攻撃は脅威です! 前兆がまるでありませんでした。初撃は出る瞬間を観測できたので手で体を押して、体をずらして回避は出来ました。その時に、元の場所に置いてた腕が犠牲になりましたが⋯⋯とにかく、前兆が無くて何時出てくるのか分かりません!』
「回避が難しいってことか!?」
『はい! なので常時横に移動して、あのドラゴンの直線上に居ないようにしたいところですが――』
昭子はそう移動出来ていない。何故ならすぐ後ろでは塩の崩壊が進んでいるからだ。
『――あの崩壊がどうにも収まらないうちは、そうできません。⋯⋯これは推測ですが、この崩壊が収まると砂地獄のような逆三角形の穴になると予想できます』
「⋯⋯それなら塩砂漠の途中で似たような物を見たな」
『はい、多分それは今回の攻撃で生み出されたのでしょう。その観察できた穴の半径は54メートルですが、日がたてば穴は自然と縮まりますので、それ以上に逃げることになると思います』
「その間に攻撃されない事を祈るしかないな!」
『もしもの時は、崩壊している塩の中に逃げることになりそうです』
そんな相談をしている間、その間でもキメゴンは変わらない。こちらを見ている。気色悪い眼球でこちらを見ている。
それを見て、一つ妙案を思いつく。遠距離攻撃をすれば良いのではないかと。
俺らが出来る遠距離攻撃と言えば、まあ一つしかない。
「《なんか火が出てくれお願いだ頼む、故郷に病気の妹がそこそこの威力で飛んでいる火を見たいって言っているんだ! 本当に頼む!!》」
キメゴンの眼球に向けて伸ばしている右手。そこから
一直線に伸びる
ああ、でもキメゴンの皮膚は岩の様に堅そうだ。だが、体内機関の一つである眼球なら? 粘膜な眼球なら? 脳の一部ともいわれる柔らか機関の眼球なら?
狙うしかない。眼球を狙うんだ!
しかし、俺は
なら、あのトラディッショナル・ジャパニーズ・コトワザである、あの言葉を参考に使おう。
――下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。
「《なんか火が出てくれお願いだ頼む、故郷に病気の妹がそこそこの威力で飛んでいる火を見たいって言っているんだ! 本当に頼む!!》《なんか火が出てくれお願いだ頼む、故郷に病気の妹がそこそこの威力で飛んでいる火を見たいって言っているんだ! 本当に頼む!!》《なんか火が出てくれお願いだ頼む、故郷に病気の妹がそこそこの威力で飛んでいる火を見たいって言っているんだ! 本当に頼む!!》《なんか火が出てくれお願いだ頼む、故郷に病気の妹がそこそこの威力で飛んでいる火を見たいって言っているんだ! 本当に頼む!!》《なんか火が出てくれお願いだ頼む、故郷に病気の妹がそこそこの威力で飛んでいる火を見たいって言っているんだ! 本当に頼む!!》《なんか火が出てくれお願いだ頼む、故郷に病気の妹がそこそこの威力で飛んでいる火を見たいって言っているんだ! 本当に頼む!!》」
俺は必死に
外れ、外れ、当たるが顎、外れ、鼻。
呼吸をする暇なんて考えずに、声が震えようとも叫ぶ。
右頬、左耳、外れ、外れ、外れ、上唇。
息が絶えて、小声で
何度も何度も、必死に言う。
そして、数えきれないほどの
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