不死属性

 昭子が狩ろうとしたドラゴンには【不死属性】とやらが付いていたらしい。が、俺には良く分からなかった。

『翔ちゃんが初めて襲われた動物について知ってますよね?』

「蝙蝠熊の事か? なんか【パラライズ】とかなんかが俺を蝕んで動けなくさせたんだよな?」

『はい。それと同じように、あのドラゴンには【不死属性】タグが付いているですよー』

「いや、だからと言って不死になるわけないじゃないか! 人にアンパンマンシールを貼ったら、そいつはアンパンマンになるのか?」

『なりませんねー。でも、翔ちゃんは【パラライズ】タグを張られて、パラライズ状態になりましたよね? なら、この世界ならありえるんじゃないでしょうか?』

「まぁそうかも知れないけどさ⋯⋯体が動かなくする程度ならナノマシンので体内電子制御でなんとか出来るけど、不死とか可能なのかって話なんだよ」

 現代日本でも不死は出来ていない。似たような人格をAIで再現して仮想的な永遠の命を手にした変わり者はいるが、連続した意識を保ったまま不老不死はいまだ夢のまた夢な領域だ。

 それをこの謎の異世界で実装できるなんて⋯⋯マジで何なんだコレ?

『翔ちゃん。このドラゴンは何で出来ていると思います?』

「え? いや、分からんけど肉が主成分な感じで出来ているんじゃないのか?」

『不正解です。まぁある意味正解ですが』

「じゃあなんだよ?」

『ナノマシンです。このドラゴンのあらゆる場所を確認してみましたが、すべての場所で、すべての肉がナノマシンと同じ反応を示していました』

「ナノマシンが主成分の生物とか可能なのか?」

『分かりませんが、此処にいるのでイエスとしか言えないんですよねー』

 そういわれてしまうと、俺からも何も言えなかった。

「じゃあ仮にナノマシンだけで構成された体があったとしよう。だけど不死なんか可能なのか?」

『んー⋯⋯。分からないとしか言いようがないですね。多分可能なんじゃないですか?』

「クッソ投げやりに答案を返すなよ」

『分からないものを分からない以外で返すことは出来ませんし⋯⋯許してちょんまげ!』

 なんで急に時代遅れ過ぎるギャグを言い出すんだコイツ。何十年前のやつだよ。

「その辺を討論しても回答は出ないから、話をドラゴン狩りに戻すけど⋯⋯どうすんの? 俺の【パラライズ】を除去したみたいに、【不死属性】を除去できるのか?」

『出来ませんねー。翔ちゃんのナノマシンはロックパスが分かっていたのでタグを外すのが出来ましたが、このドラゴンのロックパスが分からないので』

「だったら別の【不死属性】が付いていないドラゴンでも探すのか?」

『そうするしかないでしょうね、行きましょう翔ちゃん』

 そういうことになった。



 ◇◆◇◆◇



 しかし、物事は上手くいかないもので、大体のドラゴンに【不死属性】タグが付与されていた。それも小さいドラゴンの場合は確実。

 というか。こちらに一切興味を持たないドラゴンらは皆【不死属性】が付くのが当たり前らしい。よって逆の好戦的なドラゴンならいけると判断した。そして不意打ちで殺すことがほぼ不可能となった。

 だって好戦的なドラゴンは少しでも物音を立てるとそっちに向かって突撃するんだぜ? しかも定期的に辺りを確認しながら。不意打ちは不可能と結論付けても良いだろう。

 だからと言って肉をあきらめるのはあまりにも惜しい。

 というわけで、好戦的なドラゴンを狩ることになった。

 好戦的なドラゴンが何処に居るのかを考えると、農場が思い立ったのでそこへ向かう。

 農場はそこそこ遠い。ドラゴンちゃんがトラックを引いてくれるとはいえ、距離が遠いものは遠いのだ。数日かけて農場へ俺らは向かった。すべてはお肉を食べるために。

 農場に着いて、ドラゴンがいないか散策。農場について早々に好戦的なドラゴンを発見した。

 その好戦的なドラゴン。略してコウゴンは土色のドラゴンで、俺らを見るなり此方を向いて突撃してきた。

 昭子が立ち向かうために前に出る。俺はトラックに避難した。俺は戦えないからね。ドラゴンちゃんも一緒だ。

 コウゴンと昭子がぶつかる。コウゴンの頭からの突撃を昭子の両手が受け止めようとする。だがしかし、昭子は跳ね飛ばされた。

 このコウゴンのサイズはあの水ドラゴンと同等。大型トラックほどのサイズを要している。そんな大きなサイズの塊の突撃は、さすがに昭子でも完全に受け止めることが出来なかったのだ。

 昭子が空中を浮遊する間に、コウゴンは昭子に向けて口を開き――土の塊を発射した。

 凄まじい速度でせまる土塊。それを昭子は右手で受け流す。その後、土塊を蹴ってコウゴンへ向かう。

 コウゴンは向かってくる昭子を攻撃のチャンスだと思ったのか、昭子に向かってタックルを繰り出した。

 激突する。その瞬間、昭子は両手でコウゴンの頭を掴み、そのまま地面へ向かって回転しながら落下した。

 コウゴンはその勢いを止めることができなかった。昭子の腕には逆らえず、首と体が回転して、地面に落ちた。

 ぎゃあっとコウゴンの悲鳴が鳴る。体を大きく捻ってしまったのだろう。かわいそうだが俺の肉のために早く死んでほしい。

 いち早く体制を正した昭子は、蹴りをコウゴンの右足に入れる。

 蹴りは、足という人間の最大筋肉が有する部位から繰りだされる攻撃だ。人間が生身で繰り出せる攻撃の中で一番強いと言っても過言ではない。昭子はアンドロイドだけど、足が一番部位の中で力が強いのは同じであろう。

 そんな凶器の攻撃は、見事コウゴンの右足に刺さって鱗が割れる。同時に空気が割れる程の悲鳴が聞こえた。

 コウゴンは体を転がし、立ち上がろうとする。そんな隙を見逃す彼女ではない。上がったばかりの頭を――それも眼球に向かって蹴りを放った。

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