しょうこ
「⋯⋯あるはずだ。港はあるはずだ」
俺は絞る取るようにそう言葉を紡ぎだす。我ながら情けない声を出した思う。
『でも翔ちゃん。この日記は信用できます? 沼が広がっていると書いてあるのに目の前に塩が広がっているのに?』
「⋯⋯なんかあったんだろうよ、きっと。何かあって沼が塩に変わったんだよ」
『
「なにそのくだらないギャグ」
でもなんかふふふっと笑ってしまった。
『まぁ日記が間違えている理由も弱いといえば弱いので、翔ちゃんの意見も完全に否定できないんですよねー』
「だったら行こうぜ。行く以外の行動はないだろ。俺達が唯一掴んでいる人間がいる都市だろ」
『どうですね。先がありそうなものはこれしかないんですよねー』
ただ、と昭子は一区切りして言う。
『準備は万全にして行きましょう』
「万全とは?」
『塩の中を進むんです。このまま進んでダメだってことは分かりますよね?』
「そりゃ分かるが⋯⋯」
『多分翔ちゃんはただ食料について考えているだけだと思います。ただ、それだけではありませんね』
「⋯⋯塩の中に何か不確かな事でも起こるって言うのか?」
『分かりません。けど突然日記とは関係の無い塩の大地があるという事は⋯⋯何か良くない事があるかもしれませんね』
「具体的な準備の案とかはあるのか?」
『まずは食料。それと武器武具。移動手段は今まで通りにドラゴンちゃんにトラックを引っ張ってもらうつもりですが⋯⋯それが出来ない場合に備えて荷台をまた作っておいた方が良いですね』
「ああうん。⋯⋯俺が考えても良く分からないから、そっちで勝手にやってくれ」
『じゃあ、食糧を集めることからやりましょう』
そういうことになった。
昭子曰く日記の推定では、ここから10日ほどで港につくはずらしい。
つまり、25日ほどの食糧が必要となった。なぜ25日分なのかは理由が二つある。一つ目は、港がもしも無くても無事に帰れるように。二つ目は、もしもの保険が5日ほど必要だと判断したからだ。
ドラゴンちゃんの分は要らない。というか食事が要らない生物らしく、俺らと会ってから何も口にしていないのに走ることが出来ていた。ついでに睡眠も要らない。なんだこの生物。
というわけで、俺らは平原を走り回って食糧確保にいそしむ。
平原には度々、木々にリンゴみたいな実がなっており、それを回収していった。
ただ、昭子的にはこれだけだと栄養素が偏りそうだという事で、お肉を確保したいらしい。
俺もそれ自体は賛成だった。やはり人間の本質は肉食動物であり、ベジタリアンとして生きるにはあまりにも人間の胃袋や小腸、大腸は適していない。そう俺は考えている。
とはいえ、平原には何故かドラゴンしか居ない。ドラゴンって食用に向くのかどうかが分からないんだよな。
『蝙蝠熊も食用に向くかどうか、日記を見るまで分かりませんでしたし、とりあえず狩ってみて確認してみましょう』
「本当に狩ってきそうな戦闘力があるから何も言えないのがズルいよな」
俺はそんなことを言って、昭子をドラゴン狩りに行かせようとしたら、俺も行くことになった。
⋯⋯なんで?
『私が行っている間に翔ちゃんが襲われたらどうするんですか。見える位置に居てもらわないと』
「前それで死にかけたんだけど俺?」
『大丈夫、小さいドラゴンを狙いますから』
そういって昭子は、俺を抱っこして歩き始めた。
いや、俺歩けるし! そう言っても介護レベルが云々で拒否される。久しぶりに拒否理由で介護レベルを聞いて、なんだか懐かしい気持ちになった。
◇◆◇◆◇
出かけ初めて数十分、適当に俺と昭子は平原を歩いていると、狩りのターゲットを見つけた。
小さい、それも大型犬ほどの灰色ドラゴンが平原の水辺に居た。そいつがターゲットらしい。
『では狩ってきますね』
「行ってらっしゃい」
そう言って、昭子に手を振ると振返してきた。
まぁうちのドラゴンちゃんを数秒で抑えるほど強い昭子なら一瞬で終わりそうだな。そう思いながら昭子がドラゴンへ駆けるのを見る。
昭子は音を一切立てずにドラゴンのすぐ後ろに向かって、右手にある鉈を振り回して首を狙うが――鉈が根元から折れた。
ドラゴンの首は何も傷ついていなかった。硬い。
ドラゴンが攻撃に気づく。首を回して昭子の姿を確認し、そのまま首を元に戻した。首を狙われたくせに、した行動はゆったりとした確認行為で終わりだった。
「⋯⋯完全に敵だと思われてなさそうだなコレ」
へーなにかいたなー程度の認識しか持たれてなさそうだった。
昭子は急にドラゴンに対してあちらこちら触れはじめる。何してるんだアイツ? 当のドラゴンは気にせずにあくびをしていた。
しばらくしたら、折れた鉈を持ってこちらに帰ってくる。
『翔ちゃん。あれはダメな奴です』
「ダメ?」
『【不死属性】タグがあのドラゴンに付いていました』
「え、なにそのゲーム的な奴?!」
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