塩
トラックの前で俺は昭子に問いかける。
「なぁ昭子。お前何か知ってるのか? 《魔法.exe》とか謎の文字化けの事について」
『知ってたら良かったんですけどねー』
そう返すってことは知らないのか。
『ただ、この世界は色々と分からないことだらけってことです。謎が謎を呼んで考察すら論理的に行えないほどに情報が少なすぎます』
「だったらこのロボ捨てない?」
『乗り心地が良いので使います』
「だとしても怖いって」
『まぁまぁ。基本は電源をオフにして使いますから。ほら、このトラックの前面に紐を括り付けるのに丁度良い突起があるんです。これを使ってドラゴンちゃんに引かせます』
「ドラゴンちゃんすげぇ死にそうになっているけど」
小さいドラゴンことドラゴンちゃんは現在、昭子の腕によってホールドされていた。首を非常に強く圧迫されているようで、呼吸が苦しそうな顔をしている。ドラゴンの表情についてよく知らないけどそう思えた。
「というかドラゴンちゃんって大型犬くらいしかサイズがないけど、トラック引けるのかよ」
『私が引けるので大丈夫ですよ』
「お前と比べるなよ」
◇◆◇◆◇
ドラゴンちゃんのパワーは凄まじかった。
尻尾をふるえば、人間大ほどの岩が木っ端みじんになり、走れば自家用車くらいのスピードが出た。
まぁ昭子の方が強いんだけどな。ドラゴンちゃんを数秒で無力化するし、走る速度はF1カーかよと思うほどに素早い。流石高級品だと思う一方、どうして介護用にここまでのスペックが必要なのだろうかと疑問に思うほどだ。
とにかく、これほどのパワーがあればドラゴンちゃんでもトラックを引くことが出来るだろう。
問題はこちらの言うことを聞いてくれるかだが、
『はーいドラゴンちゃん。ご飯ですよー』
「ぎゃぁ⋯⋯」
『いっぱい食べて偉いですねぇー』
案外、聞いてくれそうだった。というか飯与えれば大体は聞いてくれるようになった。
てなわけで、ドラゴンちゃんに縄を括り付けてトラックを引かせて旅を再開する。
ドラゴンちゃんへの指示は、馬車みたいに紐を跳ねさせて行った。最初はドラゴンちゃんがそれを理解できなかったので、そこそこ調教したらしいが⋯⋯詳しい事は昭子から教えてもらえなかった。
ただ、昭子が紐を引っ張るたびにドラゴンちゃんの動きが少し止まって、ビクビクと昭子の方へ向くので無理して聞くようなものではないと思う。絶対こえーことしただろ。
まぁ旅は快適だ。俺らが乗り込んでいるトラックにはちゃんとサスペンションが使われているらしく、揺れは殆ど感じない。俺らはトラックの運転席に座っているから、柔らかい椅子でぐうたらできるし。
だが、ドラゴンちゃんが引っ張る速度はあまり早くない。せいぜい原付くらいか。でも昭子が荷台を引っ張っていた時も同じくらいの速度だったし、言うほど気にすることでもないかな。
あ、もちろん暇だ。というか旅って暇だよね。昭子に日記とか読ませたり、手遊びとかしたけどそれでは潰せないくらい暇な時間が多かった。
景色ぜんぜん変わらないし。ずーと山しか景色が映らないから代り映えがしないんだよな。
そうなんだよ、あの農業地帯を越えたらまた高低差が激しい平原だったんだよ。動物がなんかいるわけでもないんだよな。ドラゴンがたまにいる位だけど。
そのたまにあうドラゴンも大抵はこっちに襲い掛かることが無く、こちらをスルーしてどっかに飛んでいくしさ。なんかイベントが起こる事なんてほぼほぼ無かった。
少しはイベントはあったけど⋯⋯どうでもいい事ばっかりだ。たとえば、湧き水飲んでみたらオレンジジュースみたいな味がしたとかだし。
とりあえず、平原は基本穏やかだった。例外があの農業水ドラゴン位なだけだった。
◇◆◇◆◇
平原を越えた俺らは頭を抱えた。これはどうすれば良いのか分からない風景が広がっていたからだ。
俺は昭子に聞く。
「なぁ昭子⋯⋯こんな地形、あの日記帳には書いてあったっけ?」
『書いてないですねー⋯⋯どうしましょうかコレ?』
俺らの目の前には塩が広がっていた。地面が全て塩のみで出来ている。木々や草花などは一切ない。塩のみだ。
一言でこの地形を表すなら塩の砂漠というべき地形だろうか? なだらかな地面や白一色にそまっている風景は砂漠のように思わせた。
『私たちの旅は途中で食料を補充しながらやってきましたよね。それがここからだと出来なくなってしまいますので⋯⋯どうしましょう?』
「⋯⋯食料を平原で確保してから行くしかなくないか?」
『確かにそうですが、どの程度必要なんでしょう?』
「いや俺が知るかよ。昭子なら分かるんじゃないか? あの日記帳から歩く日にちとか導きだせるだろ」
『日記帳を信じられますか? 日記帳の地形が本当かどうかが分かりますか? 書いていなかった塩砂漠の地形が目の前に広がっているのに』
「いやまぁ⋯⋯そうだけどさ」
たしか日記帳には、ここから沼地が広がっていると書かれていたはずだ。それが無いとなると、この日記帳は本当に信じられるのかが分からないと十二分にいえるな。
「だけどさ、俺たちは目的地の港くらいしか、この状況を打破できる当てがないんだぞ。多少無理しても行くべきだと思うんだ」
俺は何かにすがるように、早口で理由を並び立てる。帰れるかもしれない希望を捨てたくなかったのだ。
だが、昭子は次のような言葉で俺の意見に疑問符を出した。
『⋯⋯翔ちゃんは本当に、港があると思います?』
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