δράκων

 眼球とは柔らかい部位だ。そんな部位に昭子が蹴りを入れる。結果は語るまでもない。だけど語りたい気分なので言うね。コウゴンの眼球は破裂した。

 コウゴンの悲鳴が鳴り、辺りを暴れる。眼球の痛さが異常なのか、昭子を気にせずに目を押さえて暴れまわっていた。なんかタンスの角に小指をぶつけて悶える俺みたいな感じで暴れまわっていた。

 だが昭子は蹴るのを止めない。ガスガスと、何度も何度もコウゴンの全身隈なく蹴り上げる。

 数分がたつと、コウゴンの全身は血で埋めつくされ、コウゴンも悲鳴が収まった。死んだのか気絶でもしたのだろう。

 狩りは終わりと言う感じに、昭子が俺らのいるトラックに戻ってきた。ドアを開け俺に微笑む。

『さて翔ちゃん。あのドラゴンをバラしますよ』

 昭子がドアカバーに置いてあった、鉈(予備)を手に取った。



 ◇◆◇◆◇



 昭子がドラゴンを解体バラするらしいが、どう解体するのだろうか? 解体するとなると、ある程度の目途がなければ出来ないだろう。

 前に蝙蝠熊を解体した時は熊の解体方法を昭子が知っていたので、可能であったがドラゴンの解体方法はないだろう。それはドラゴンが空想上の生き物だったからだ。

 それか、ドラゴンに近い生き物を元に解体するかだが⋯⋯ドラゴンという生物の元ネタを知っているかどうかだ。

 俺は知らない。

 完。

 と思ったら昭子が知っていた。

『ドラゴンの元は蛇ですよ。翔ちゃんはレッドドラゴンって知ってますか?』

「知らないよ、なにそのカッコイイ名前の奴?」

『じゃあ新約聖書は?』

「キリスト教の奴としか知らないなぁ」

『アダムとイブは流石に知っていますよね?』

「初めの二人の人間の事か? 知ってる知ってる。知恵のリンゴ食ったら恥ずかしくなって葉っぱで隠した奴らの事だろ?」

『はい。あってますよ翔ちゃん。――では、そのリンゴは食べさせたのは一体、何者なんでしょう?』

「は?」

 そう言われると、何も答えられない。⋯⋯食べさせた人がいるのか? アダムたちが自主的に食べちゃった訳じゃなくて?

『蛇です。真っ赤な蛇がアダムとイブをそそのかしてリンゴを食べさせました。それで色々あってアダムたちは楽園を追放された。原罪っていう奴ですねー』

「えっと、その蛇がドラゴンの元になった事か?」

『厳密には違いますけど、まあその認識で合ってます』

 こっからは余分な知識です。と昭子は前提を言って、次のように言葉を垂れ流す。

『ドラゴンという言葉の元は、ギリシア語でδράκωνドラコーンに由来します。意味は鋭い眼光で睨むもの⋯⋯つまり蛇を指します。これが様々な言語で改変され使われて、今のドラゴンという言葉に至ったのです。さて、蛇という生物を指す言葉はサーペントだと思いますよね。⋯⋯ー~~~っ! 正解! 昔々ではドラゴンと蛇は具体的に区別されていなかったんですよ。まぁδράκωνドラコーンという言葉の意味は鋭い眼光で睨むものですからね。蛇以外の生物も普通に指せるんですよ。たとえば聖書のなかでδράκωνドラコーンと指す生物は蛇以外にも、ワニとクジラがいますしね。新約では七つの頭、十本の角をもつ赤い竜が登場してます。ここまで言えば分かると思いますが、ドラゴンの語源は元々蛇を指していまして、聖書の蛇はδράκωνドラコーンと書いているんですよ。だからドラゴンの元は蛇と言えます。以上、ウィキからの引用とテキトーな解釈でした』

「最後の一言で一気に信憑性が薄くなったんだが」

 ウィキはともかく、テキトーに解釈するなよ。話の意味がぶれるだろうが。

 まぁ、今回のドラゴンの解体には役に立つだろう。

「で、昭子。⋯⋯ドラゴンは蛇を捌く要領で行けるのか?」

『無理ですね』

 おい。

『このドラゴンは蛇と表すよりも、トカゲと表した方が納得できる体構造をしてます。なのでトカゲを解剖する要領で捌いたほうが良いですね』

「さっきのドラゴン討論の意味がなくなるんかよ」

『少しは意味があると思いますよ? ただ、このドラゴンのようなデザインが出たのは19世紀ごろだと言われてますので⋯⋯』

「やっぱ意味がないじゃんかよ」

『ありますよ。楽しかったでしょ?』

 確かに楽しかったけど、それはこの討論のおかげでドラゴンがうまくさばけるかもしれないという高揚感からだ。討論そのものには楽しさを感じていなかったんだよ。

 そんな俺の思いなど関係なしに昭子はテキパキとドラゴンを捌いていった。

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