いちいちネットを探すなよ
周りは緑一色。作物だと思われる茎で場が覆われているからだ。
光もほとんどない。上から明確に光が出ているわけではなく、茎を透過するように光が漏れ出ている形。重力という感覚が無ければ上下がどちらなのか分からなくなっていただろう。
「⋯⋯どうするか」
いやマジでどうしよう? 明確な目標というかなんというか、目指す場所はあるが⋯⋯現在位置が分からない。GPSが無いからね。
俺は昭子に、進行方向とか立地把握などを全部ゆだねていた。しかし現在、俺は一人ぼっちだ。昭子とははぐれてしまったし、相談相手が――いたわ。
おーい。ナノマシン《とっても健康君Mark-2534》さんや。
そう念じると、《ぽこん》っと脳髄から音声が響く。このナノマシンの音声案内ガイドが反応したサインだ。
《エラー:インターネットに接続されていません》
《このエラーに対する、
あ、そうですか。音声案内ガイドは使えないんすか。
俺はちょっとテンションが下がった。だがまぁネット通信が出来ない状態でもある程度は
とりあえず、これからどうしようと念じる。
《情報が足りません》
《ネット検索します》
《エラー:インターネットに接続されていません》
《このエラーに対する、
こいつ、いちいちネットに繋げようとして失敗するな。
この音声ガイドは俺の体内の事は全て把握しているが、その逆、対外、外のことは全く持って無知だ。だから、いちいち現状を説明しなくてはいけないのがめんどくさい。
さて、どう説明したろうかと考える。
とりあえず現状の説明、異世界に転生してドラゴンに襲われてこうなっていることを説明した。
《エラー:ドラゴンについてのデータがありません》
ドラゴンの事を説明する。えーと何か水球を打ってくる生物で、
《エラー:水球についてのデータがありません》
なんかソクラテスみたいだなこの音声ガイド。
昭子ならこういうのを柔軟に受け止めるのに、コイツは硬い。まぁ体質管理ナノマシンと高性能介護アンドロイドを比べるのがノンというべきかもしれないが。
ナノマシンという小型機器である性質上、そこまで高い性能の演算装置やメモリを搭載出来ない。なので内臓AIの質が良くはないのだ。
⋯⋯つまり昭子を此処に呼び出せれば良いのでは!
ナノマシンに昭子は何処に居るのかを聞いてみる。
《端末名「昭子」への接続は現在切れています》
《解決策をネット検索します》
《エラー:インターネットに接続されていません》
《このエラーに対する、
このエラー毎回出てくるのウザいんだが、どうにか止められないかな? そう思うとナノマシンはその疑問を解決すべく、ネット検索をして、またエラーを吐き出した。ウザい。
というかこのナノマシン、昭子に接続してたんだな。
ナノマシンの実行履歴を見てみる。すると転移するまえから昭子に接続されてたらしい。接続方法はLPWAv25だ。広範囲で低速度で通信が可能な電波規格だった気がする。
ナノマシンにLPWAv25がどの程度の性能を持っているのかを聞いてみる。たのむ、データが無くて、ネット検索に移行しないでくれ!
《データがあります》
《LPWAv25:有効範囲「2.3キロメートル」》
《LPWAv25:通信速度「毎秒12バイト」》
《当ナノマシンの最大同時接続台数は12台》
《現在は1台接続されています》
よかった。ちゃんとメモリ内にデータはあったようだ。
⋯⋯いや、なんか一台接続されちゃってるよ。身に覚えがないぞ。
《端末名「繧イ繝シ繝?繝槭せ繧ソ繝シ」:アクティブ》
あーうん。これはなんか触らない方が良い奴だな。バリバリ文字化けしていらっしゃる。
しかも今の時代、自動で文字化けが起こらないようにマルチバイト文字の種類などを自動把握する機能が標準装備されている。そんな中で文字化けするとなると。
「⋯⋯ナノマシンが知らないバイト文字種ってことだよな?」
そういう文字は普通は無い。基本的にインターネットにてオープンに公開されている場合が普通なのだ。
だが、コイツはなんだ? ナノマシンが知らない文字列を使っているのは何なんだ?
「良く分からない⋯⋯」
思わずそう声を出した瞬間だった。
――空気がはじける。
それは台風のような爆発風。周りにあった作物らがバサバサと揺れる。作物によって隠れていた土が剥き出しになり、土煙が舞い上がった。
俺は近くの茎に捕まった。それはもう必死に捕まった。しかし風は強くて強大な負荷が腕にかかる。
つらい、苦しい。そんな感情が出てくる。
「どうしてこうなってんだ!」
俺は顔を上げると、ドラゴンが空を飛んでおり――小さい黒豆粒のような物体と戦っていた。
あれはなんだ? あの黒点は何なんだ? 遠くに居るせいか良く見えない。
そう思った瞬間に脳髄に音声が流れる。
《端末名「昭子」との接続がアクティブになりました》
LPWAv25は物体が遮っても、通り越して通信が出来る。だが遮る物体が無い状態なら更に通信範囲は伸びるのだ。
そして現在、遮るもの――作物の茎――が風によってバラバラとなっている今なら。
通信相手が上空に居る状態なら、遠くでも接続が可能となるかもしれない。
「⋯⋯もしかして、ドラゴンは昭子と戦っているのか?」
黒点と水ドラゴンが再度、激突。風がまた吹き荒れる。
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